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Mozart ピアノ協奏曲全集によせて


 「安く売っていれば、必ずCDは買う」といった、お気に入り曲は沢山存在します。Mozart は代表例であり、ピアノ協奏曲はもうどうにも止まらない。「どれが一番お気に入り?」と訊かれても困りますね。とにかくなんでも無条件に好き。どの曲にせよ、聴き進むに連れて、天上の無垢な歌声が響くような錯覚に陥ります。幸せ。

 LP時代は、ヘブラーの全集半分(後半)で楽しみました。VOX(パイオニアの国内盤)3枚組でクリーンの素敵な演奏のも持っていたはず。(たしか3,600円)ああ、そういえばハスキルの演奏はずいぶんと集めた記憶もあります。CDではクリーンとハスキルが数枚揃っただけで、ムリして(再度)集めようとは思いません。とくにかく、安かったら、自分のお小遣いの範囲内で無理なく手に入るようなら、買っているだけ。

 CDはもうクサるほどたくさん!有。ああ、ほんとうは一度整理しなくっちゃいけないね。でも、きっと一日仕事になってしまう。それで、主に手許の「全集」について少々コメント、というか思っていることを。



Mozart ピアノ協奏曲全集  ゲーザ・アンダ(p、指揮)/カメラータ・アカデミカ・ザルツブルク・モーツァルテウム
DG  429 001-2(1-10) 1961年〜1969年録音  10枚組 11,250円にて購入  *2台・3台のための作品含まず

 レシートが残っていて「ワルツ堂堂島店 毎日会館1F 03-01-25」となっております。(大阪時代に購入)毎日会館ももう存在しないし、ワルツ堂は昨年倒産しました。10年以上経つんだね。当時はこれが一番安かったんです。評価も高かった。今だったら、たしか4,000円でお釣りが来るでしょ。一枚1,000円以上だから、現在のワタシには、とても贅沢で買えない価格。でもね

 10年楽しめば、充分価値があってお釣りが来ます。10年間の感動は7,000円某の差額ではカウントできません。CDや、ものの価値・価格とはそんなもんです。大切に、心豊かに音楽を楽しむことができれば安いもの。いくらCDが安くても(もちろん高かったら論外だけれど)、その逆であれば大切なお金と時間をドブに捨てるようなもの。

 この全集を購入した当時、ワタシは既にグルダ(新旧)、ハスキル、クリーン、ポリーニなどの個性的、かつ水際立った演奏を知っておりました。それ故、アンダの演奏はひときわ地味でオーソドックスに思えたものでした。専門の指揮者ではない「弾き振り」であるためか、バックのアンサンブルがやや雑であることを気にした記憶も有。(今、確認するとそんなことはない、どうして?)

 しかし、この演奏には長く聴き続けて飽きさせない、魅力が隠れています。例えば、リズム感がやや現代風ではないにせよ、曲が展開し、進むに連れて、Mozart の魅力的な旋律が過不足なく表現され、ピアノという楽器を忘れさせてくれました。個性的ではないが、ピアノの音に芯があって、軽快な旋律が表面だけ流れることを許さない。

 録音は、例の如しのDG録音の典型でしょう。地味でややどんよりとしているが、中低音が充実していて、聴き疲れしないものです。久々、6曲ほど確認して存在価値を再確認。


Mozart ピアノ協奏曲全集 アンネローゼ・シュミット(p)/マズア/ドレスデン・フィルハーモニー
edel 0001502CCC  1970年代の録音 10枚組 2,590円で購入 *第1番〜4番、2台・3台のための作品含まず。但し、2曲のコンサート・ロンド含む

 レシートによると2000年6月27日岡山タワーレコードにて購入。先のアンダ盤と比べると、その価格の暴落に愕然とします。これが時代の流れでしょうか。「音楽は価格ではない」と言った矢先ながら、この価格差には有無を言わさぬ説得力があるのも事実でしょう。しかも、演奏が並ではない。

 軽量ではないが、この華麗なピアノの魅力は筆舌に尽くしがたい。明快なタッチ、技術も安定しているが、まるで一つひとつの音の粒が微笑んでいるような、快活な色気を感じさせます。アンダと比較するとよくわかるのですが、ほのかに弾んだようなウキウキ感が漂います。これぞ「春のMozart 」。

 とりわけ、初期の作品を一層楽しく聴かせて下さいました。アンダの落ち着きも魅力だけれど、シュミットの明るい華やぎに溜息も出ます。これは、ちょうど男性と女性の個性の違い、と言ってしまうと、見識あるある方々に叱られるかも知れません。音楽が表層を流れないという点では共通するものがあります。

 確認できませんが、録音会場はドレスデンの聖ルカ教会でしょうか。適度な残響と深みが落ち着きを持って輝いています。中低音に重心があるのも好ましい。ひとつの理想的な音質と言って差し支えない録音水準。時に心のこもらない浅薄なる音楽を作ってしまうマズアも、ここでは誠実。好不調の波が激しいドレスデン・フィルも瑞々しい響きで包み込んでおりました。

 全集を探すのなら、この辺りが一番のお勧めでしょうか。



Mozart ピアノ協奏曲全集   バレンボイム(p、指揮)/イギリス室内管弦楽団
EMI 5 72930 2  1967-1974年録音  10枚組2,500円(中古にて購入) *2台・3台のための作品含まず

 2002年12月27日年末も押し迫ったBOOK・OFFにて購入。正規で購入しても4,000円はしないでしょうか。紙ケースのスリムパックが好ましい。バレンボイムの旧録音(新録音はベルリン・フィルと1980年代後半に)全集。バレンボイムは正直、好みの指揮者ではないし、ピアニストとしてもデビュー録音以外ほとんど聴く機会を持ちません。興味はさほどにない。

 夜想曲しかし、Chopin  夜想曲集(抜粋13曲1980年録音)DG POCG-90423を@250で手に入れて、聴く機会を偶然に持ったが、これが予想外に悪くない。やや考えすぎ、真面目方面ではあるが、夜想曲の美しさ、遣る瀬なさはちゃんと伝わりました。やれ、Chopin にはとろけるような音色が・・・とか、揺れるような不安げな即興性を、とか〜そんなこと言い出したらキリないが、ああ、やはり先入観で耳を閉ざすのはいけないな、と。

 8枚目、第20番ニ短調、第24番ハ短調協奏曲を聴いていただきましょう。まず、オーケストラが劇的に爆発する。表現的に大仰すぎるし、EMIの劣悪録音だから全体の響きを明快に捉えられません。はっきり言って響きの濁りが気になる。そして、ピアノはもっと雄弁。濃厚。これも美しいと評価しておかしくはない。

 先のアンダ、シュミットは、なんやかんや言っても「自然体派」でした。バレンボイムはけっこうテンポも揺れるし、細部に仕掛けを入れ込むし、なにより「音楽は激情だ!」(コレ、フルトヴェングラーを目指しているの?)風、燃えるような情熱とノリが存在します。時にやや走りすぎ。Beethoven に近いMozart 表現か。この方向を好む人は(数多く)存在するはず。

 ワタシ個人は、ここ数年すっかり枯れ「自然体派」「薄味仕立て」「隠し味、裏地凝り」方面の嗜好に走っているので、全面的な賛同はいたしません。でも2,500円でしょ(じつは、さらに50円引きのサービス券使用)、まず、音楽は聴いてみなければ。「嗚呼、こういうMozart もありなんだなぁ」と。これも幸せな時間です。


 これで手持ちの全集は終了。しばらくは買わないでしょう。と、思ったら大切なものを忘れていました。


Mozart ピアノ協奏曲全集  デレク・ハン(p)/フリーマン/フィルハーモニア管弦楽団
BRILLIANT 99319-27  1992-1995年録音  40枚組9,500円で買ったMozart MasterWorksのウチの10枚。 *2台・3台のための作品含まず

 BRILLIANTのMozart EDITIONとして別途(格安で)手に入ります。録音がオフ・マイクっぽいが、しっとりした雰囲気と奥行き残響があって悪くない音質。これほど奥床しく、トツトツとした、地味〜じゃないな。控え目な、か?〜な演奏も珍しいでしょう。流麗ではないが、自ずと湧きい出る「ノリ」はちゃんと存在します。バレンボイムのあとに聴いたせいもあって、ずいぶんと静謐さが漂いました。良い匂い、薄もやが掛かっているみたい。

 ピアニストも指揮者も知名度は高くないが、誠実な演奏ぶりがココロに染みました。ソロとバックは完全に融合しております。細かい仕掛けは沢山あるんだろうな、専門の方が聴けば。(例;第21番ハ長調協奏曲第1楽章のカデンツァに、第40番ト短調交響曲の第1楽章主題が入る)アンネローゼ・シュミット盤とは意味合いが異なる、色気が漂います。もっと神秘的で静的なもの。

 バックは上記3全集に較べて、もっと美しいでしょう。ピアノも負けてはいません。瑞々しい情感が溢れます。出色の全集と評価したいところ。


 わかった風なことを長々と書きましたが、もちろん40枚すべて聴いたわけではなく、あちこちセレクションして確認しただけです。でも、この数日間はひたすら幸せでした。ワタシはMozart が大好きです。(2003年1月2日)


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written by wabisuke hayashi