Mozart クラリネット協奏曲イ長調K622(ハロルド・ライト)/
ファゴット協奏曲 変ロ長調K191(シャーマン・ウォルト)
(小澤征爾/ボストン交響楽団)


DG MG1253Mozart

クラリネット協奏曲イ長調 K622
ハロルド・ライト(cl)

ファゴット協奏曲 変ロ長調 K191(186e)
シャーマン・ウォルト(fg)

小澤征爾/ボストン交響楽団

DG MG1253 1978年録音

 2019年は北海道の両親を相次いで失って、そして初孫が生まれる・・・人生順番交代。日本が世界に誇る小澤征爾さんだって1935年生まれ、腕利き揃いなボストン交響楽団首席であったHarold Wright (1926ー1993)Sherman Walt (1923ー1989)も既に鬼籍に入っております。小澤さんのMozartは意外と録音が少なくて、これは当時手兵だったボストン交響楽団(在任1973ー2002)の名手を紹介する録音だったのでしょう。

 当時、指揮者は43歳、気力体力充実して働き盛りの時期でしょう。数多くの録音を残して、自分は残念ながら佳き聴手ではありません。細部きっちり神経質に描き込んで、息苦しいほど生真面目、オモロない!そんな印象を抱えて幾星霜、華麗なる加齢にこんな清潔な演奏も好ましく感じるようになりました。いやほんまのところ、たいていの演奏は音質さえそれなりなら名曲をたっぷり愉しめる・・・

 クラリネット協奏曲はこの楽器協奏曲の最高峰、晩年の諦観に充ち、心が洗われるように透明な境地が伺える作品。第1楽章「Allegro」落ち着いてシンプルな伴奏が纏綿と歌って1:55経過、ようやくクラリネット登場。マイルド、スムースに練り上げられた技巧はヴィヴラート少なめ、素直な音色。ハロルド・ライトはマールボロ音楽祭でも活躍した人だけど、個性を際立たせる力感スタイルに非ず、オーケストラの一員としてサウンドに溶け込んでおりました。まるで澄んだ清流のように淡々と音楽は流れました。快活な伴奏もぴたり息が合っている感じ。(12:32)

 第2楽章「Adagio」さわさわと静謐なバックに、クラリネットが全編に渡って瞑想を奏でるところ。懐かしさと憧憬溢れる感動的楽章でっせ。この楽器は音域によって表情を変えるんだそう、ソロは常に抑制が効いて名残惜しげにデリケートなこと!静かに落ち着いた音楽に、聴手は息を潜めて集中するしかない。(7:06)第3楽章「Rondo」は弾むような晴れやかな開始。ハロルド・ライトは柔和な表情を崩さない。もっと力強く躍動して!と願っても、ソロ・オーケストラともそっと優しい抑制が続きました。達観と諦念の名曲にはこんな表現も相応しいのか、例の如し途中に垣間見える”ちょっぴり暗転”に哀しさが際立ちました。(8:57)

 これもこの楽器の最高傑作、ファゴット協奏曲はユーモラスに躍動しております。第1楽章「Allegro」我らがヴォルフガング18歳の若き作品、上記”達観と諦念の”晩年作品に比べ、天衣無縫の明るさと躍動に充ちております。軽快な技巧、音色そのものがユーモラスに感じます。シャーマン・ウォルトは生粋のアメリカ人らしいから、仏蘭西風鼻声バソンに非ず(←今時そんな人は少ないか)これもハロルド・ライト同様オーケストラの一員としてアンサンブルに溶け込んでおりました。細かい音形は(ド・シロウトが想像するに)超絶技巧・・・とは思わせぬスムースな演奏であります。(7:32)

 第2楽章「Andante」。初耳でもどこかで聴いたような?懐かしい静かな緩徐楽章。若書きとは思えぬシンプルかつ多彩な旋律を纏綿と歌って陶酔のひととき。(7:02)第3楽章「Rondo」。晴れやかに優雅なオーケストラの出足から、忙しないソロの音形が効果的に絡みます。これもおそらく超絶技巧、例の名残惜しくも”ちょっぴり暗転”の対比も効果的でしょう。(4:46)

 全体に室内楽的な集中力と静謐を感じさせて、ややジミな演奏かも。こういうのが息長く飽きがこないものなんです。

(2019年12月1日)

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written by wabisuke hayashi