Brahms 4つのバラード 作品10/パガニーニ変奏曲 作品35
(アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(p)1973年)


Brahms 4つのバラード 作品10/パガニーニ変奏曲 作品35(アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(p)1973年)
Brahms

4つのバラード 作品10
パガニーニの主題による変奏曲 作品35

アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(p)

membran 223042-CD5 AUR225  1973年ライヴ 10枚組1,590円にて購入したウチの一枚

 ”価格破壊もここまできた”的感慨も深いセットでした。(その後第2集も発売)いくつかはかつて購入して、その劣悪なる音質に閉口、処分していたものも一部含まれます(例の「出戻り買い」の一種であります)。このBrahms は意外と良好な音質で、お買い得なる一枚。

 ワタシはBrahms のむっつり暗鬱なる世界が(とくにピアノ・ソロ作品)大好きです。このサイトにも千度書いたけれど、後ろ向きに黄昏た、人生の先行き見え、とぼとぼとした重い足取りが妙に共感を呼ぶ・・・って、楽しい毎日じゃなかったなぁ・・・なんてシミジミするような非・若者的(非・女性的でもある)音楽の魅力。ワタシはルービンシュタインにひとつの理想を見ました。(ピアノ小品集は例外的に2,000円出して購入している!)

 若い頃はともかく、ルービンシュタインのステレオ録音はほとんど爺さんになってからの録音でした。枯れ具合やら抑制された味わいやらが、ちょうどBrahms にピタリ!しかし、このミケランジェリ52歳の録音はまだまだ濃厚なる味わいが、あちこちセクシーなんです。なんでしょうね、この硬質なる艶は。露西亜風粘着質ではない、もっと貴族的というか洗練された切れ味あるカッコ良さ。「4つのバラード 作品10」は、それこそルービンシュタインの円熟しきった、過不足のない絶妙な世界が脳裏に木霊しているが、ミケランジェリには別種の魅力が表出します。

 「4つのバラード 作品10」は、1854年まだ21歳の作品だけれど、老成して暗い味わいのある作品だと思います。とつとつと弾いて・・・といったイメージだけれど、ミケランジェリは「エドヴァルト」ニ短調から、かなり強靱な打鍵が聴かれます。その対比、続くニ長調「アンダンテ」は艶ややかで優しく、華やかなこと!そして、しっかりとした足取りが雄弁なる中間部へ。”枯れる”なんてとんでもない。

 まだ、あきらめきれない激情を訴える「インテルメッツォ」ロ短調のリズム感のしなやかさ、変幻自在なるタッチの妙、ロ長調「アンダンテ」は水も滴るような美音が、静かにたしかに響いて、余韻を低く引きずって名残惜しい。懐かしい。老人の繰り言ではなく、セクシーな嘆きであります。

 主題は「24のカプリース」より第24番のイ短調・・・といえばRachmaninov が有名だけれど、Brahms だって稀代の名曲30分の愉悦。これは30歳頃の作品です。この作品、マーティン・ジョーンズ全集で(少なくとも一度は)聴いていたはずだけれど、初耳のような感触でしたね。原曲もハードな難曲だけれど、この変奏曲も恐るべきテクニックが(いかにも)必要な作品です。重厚に圧倒的説得力技巧で驀進するピアノであり、表層を流さない。どの変奏もこだわりと、濃厚なる味付けが刻々の変化を誇って”たんなる技巧作品”として終わらせない世界。

 美しいですね。きらきらと輝きが奥深い。重い。雄弁であり、時に儚(はかな)い。切ない。

 いやはや、凄いものを聴いてしまいました。聴衆の拍手は(もちろん)熱狂的。CD一枚47分は適度な収録であります。聴き手には、これ以上の集中力が続かない。

(2006年3月4日)


【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
▲To Top Page.▲

written by wabisuke hayashi