Messiaen 世の終わりのための四重奏曲/主題と変奏
(マイヤー(cl)/ポッペン(v)/M.フィッシャー・ディースカウ(vc)/ロリオ(p))


EMI 50999 2 06867 2 7 Messiaen

世の終わりのための四重奏曲

ヴォルフガング・マイヤー(cl)/クリストフ・ポッペン(v)/マニュエル・フィッシャー・ディースカウ(vc)/イヴォンヌ・ロリオ(p)

主題と変奏

クリストフ・ポッペン(v)/イヴォンヌ・ロリオ(p)

EMI 50999 2 06867 2 7   1990年録音

 プレヴィンによる「トゥランガリーラ交響曲」の続編です。CD2枚目に余った分の余白収録也。Messiaenの音楽はつかみどころない難解、馴染むのに時間がかかって、ここ数年ようやく心の琴線に触れるようになりました。「世の終わりのための四重奏曲」(1940年: Quatuor pour la Fin du Temps)は「トゥランガリーラ交響曲」と並ぶ売れ筋でしょう。若い頃は新しい音楽に見聞と視野を拡げることに傾注して、例えばホルスト・シュタイン(既に手許に存在しないエア・チェック音源)とか、ニューヨーク・フィロムジカ室内アンサンブル(20年前に入手したCD)など聴いておりました。ま、誰のでもかまわないけど今朝はヴェラ・ベス(v)/アンナー・ビルスマ(vc)/ジョージ・ピーターソン(cl)/ラインベルト・デ・レーウ(p)(1977年)による「四重奏」を聴いておりました。

 華麗なる加齢を重ね、時にやかましいほど華やか綺羅びやかサウンド、時に静謐に沈溺する複雑な音楽は、すっかりお気に入りとなりました。

 プレヴィンとのフィル・アップはすっかり忘れていたもの。ヴォルフガング・マイヤーってザビーネの兄さん、マニュエルは偉大なるフィッシャー・ディースカウの息子とのこと。ド・シロウトに演奏云々はようわかりまへんで。そもそもこんな作品を演奏録音するのはいずれ、名人でないわけはない。第2時世界大戦中の収容所にて云々はどこかで調べて下され。75年前か・・・意外と最近かも。

(1)「水晶の典礼 Liturgie de cristal」(Bien modere, en poudroiement harmonieux)。ピアノの和音を底辺に据えて、まるで小鳥が啼き交わすようにヴァイオイリン(クロウタドリ)とクラリネット(ナイチンゲール)が繊細に歌って静謐に終わります。

(2)「 世の終わりを告げる天使のためのヴォカリーズ Vocalise, pour l'Ange qui annonce la fin du Temps 」(Robuste, modere)。激しく強烈なピアノの不協和音が鳴り響いて、クラリネットは自在に絡んで、ヴァイオリンとチェロはユニゾンで切迫感を漂わわせます。やがて漂うようなピアノの和音に乗って、弦が弱々しく呼応〜ため息のみ、旋律や情感が存在しないような淡々とした繰り返しであります。ここが「天使のヴォカリーズ(無言歌)」?やがて一気にそれは破壊されて終了。

(3)「 鳥たちの深淵 Abime des oiseaux」(Lent, expressif et triste)。クラリネットによるモノローグは延々と続いて7:46。息の長い、音量や音色の変化、間、明らかに鳥の歌を意識したような囀(さえず)りも出現して、クラリネット・ソロの最高峰、超絶技巧+が要求される楽章。ヴォルフガング・マイヤーの洗練、静謐、切れ味には恐れ入って、気が遠くなるほど。

(4)「 間奏曲 Intermede」(Decide, modere, un peu vif)。軽快なリズム、怪しげな風情。ヴァイオリン、クラリネット、チェロによる、ほとんどユニゾン+クラリネット・ソロが自在に歌います。わずか1分半の息抜きみたいなところ。

(5)「イエスの永遠性への賛歌 Louange a l'Eternite de Jesus」(Infiniment lent, extatique)。主役はチェロ、纏綿と甘美、泣けるような諦観の旋律をつぶやいて、静かにピアノがそれを支えます。例えばロストロポーヴィチだったらとことん官能的肉感的に歌いそうに想像されるところ、マニュエルはあくまで清楚に抑制を効かせております。ここは全曲中、一番親しみやすい安寧の8分間也。

(6) 「7本のトランペットのための狂乱の踊り Danse de la fureur, pour les sept trompettes」(Decide, vigoureux, grantique, un peu vif)。4人の奏者の激しい、落ち着かない怒りのユニゾン(この楽章全部)がトランペットを表現しているのか。「7本のトランペット」って宗教的な意味があるんでしょう。その辺り欧州キリスト教の基礎知識が薄いのでなんとも・・・途中弱音に静謐さが表現される対比も、すぐに不安が戻ります。

(7)「 世の終わりを告げる天使のための虹の混乱 Fouillis d'arcs-en-ciel, pour l'Ange qui annonce la fin du Temps」(Reverur, presque lent)。「イエスの永遠性への賛歌」の続編を連想させる、高音、静かなチェロの歌で始まります。それは無遠慮に乱入するアンサンブルに中断され、これがフル・オーケストラではさぞや華やかな爆発!を想像させるもの。やがて冒頭の静謐旋律がアンサンブルによって再現され、それはやはり暴力的なリズムに中断されます。この激しさもたっぷり魅力的。

(8)「イエスの不滅性への賛歌 Louange a l'Immortalite de Jesus」(Extremement lent et tendre, extatique)。これは「イエスの永遠性への賛歌」のヴァイオリン版です。情感を押し殺したような、線の細いヴァイオリンの賛歌に、ピアノが遠方より断続的に和音を付けて、天国のように美しいところ。神の前の諦観といったところでしょうか。全曲中一番長い8:28。

・・・収容所でこんな不安と破壊、静謐と安寧に充ちた音楽が作曲され、演奏されるなんて・・・ちょいと自分のノーミソ範疇を超えます。

 「主題と変奏」は先の「イエスの不滅性への賛歌」の風情そのまま、続編みたいな静謐な作品。じつは1932年初期の作品とのこと。Debussyの影響が感じられ、後年の作品より作品旋律の情感がわかりやすい。でもピアノ散文的な響きとかほとんど後年のイメージから外れておりません。”情感を押し殺したような、線の細いヴァイオリン”はここでも同様です。

(2015年10月31日)


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written by wabisuke hayashi