Mendelssohn ヴァイオリン協奏曲ホ短調/Dvora'k ヴァイオリン協奏曲イ短調
(ダヴィッド・オイストラフ(v)/キリル・コンドラシン/ソヴィエット国立交響楽団1949年)


BRL92609 Mendelssohn

ヴァイオリン協奏曲ホ短調 作品64

Dvora'k

ヴァイオリン協奏曲イ短調 作品53

ダヴィッド・オイストラフ(v)/キリル・コンドラシン/ソヴィエット国立交響楽団(1949年)

BRILLIANTCLASSICS BRL92609/CD1

 音楽に貴賤なし。大昔「軽音楽」という言葉がかつて存在し、既に死語となりました。おそらく「重厚長大」が価値であった時代の産物でしょう。「通俗名曲」というのもありました。若いピアニストがデビューするのは「Tchaikovsky/Rachmaninov 」、ヴァイオリニストだったら「メン・チャイ」、来日する室内管弦楽団は必ずVivaldiの「四季」を演奏する・・・1960年〜70年代?けっこうシンプルな時代だったなぁ、と思いますよ。ワタシは小学生時代から武満徹を聴く生意気クソガキだったから「Mendelssohn ヴァイオリン協奏曲ホ短調?けっ!ド・シロウトが」みたいな、そんな可愛げのない音楽ファンだったかも・・・

 Beeやん苦手、Brahms ご遠慮、そんな罰当たり体質は変わらぬが、新しい音楽、馴染みの薄い音楽、そして苦手系音楽も日常聴くように心掛けております。誰でも知っている歌ってる〜Mendelssohn ヴァイオリン協奏曲ホ短調の甘美な旋律は、最近すっかりお気に入りに・・・それは、このオイストラフの太古録音に出会って以来であります。オーマンディとの1955年録音が有名なのかな?残念ながら未聴。他、ステレオでも録音があるはずだけれど、意識して探したことありません。そして、この録音と出会って〜甘美豊満、朗々たるヴァイオリンに心奪われました。

 旧ソヴィエットの録音はもとよりあまり期待できぬし、ましてや1949年戦後間もない頃。もちろんモノラルでっせ。これがなかなかヴィヴィッドな音質なんです。ソロをメインに大きく据えた昔風ながら、バックのオーケストラ奥行き存在感も含め、かなり”聴ける”鮮度であります。高音も低音もよく伸びます。ヘッドホンで集中すると少々粗は目立つ(とくにオーケストラの響き)けれど、コンポで部屋に音を流すとエエ感じ。我が人民中国製ディジタル・アンプとの相性抜群。

 哀愁と愁いを含んだ第1楽章「アレグロ」〜ここからオイストラフの健全なる美音全開であって、甘美な旋律はたっぷり、豊かに歌われて理想的。テンポは速からず、遅からず、曲想に応じた揺れ動きも自然です。音色が旋律情感と呼応して、刻々とニュアンス変化させるんです。カデンツァの情熱的な表現も文句なし。第2楽章「アンダンテ」は清潔な抑制が、なんともいえぬ安寧をもたらしておりました。素晴らしく安定した技巧は弱音ゆったりとした歩みの中で、いっそうその効果を発揮できる。

 暗転した第2楽章からそのまま途切れず、晴れやか、花咲き乱れるような終楽章に突入。細かく弾(ハジ)ける音型はたっぷり豊満な肉付きに充たされて、朗々纏綿と歌い続けて飽きることはない・・・ここ最近、Berg辺り聴き過ぎたか。妙にこんな素直に美しい旋律が嬉しい。

 Dvora'kのほうは少々知名度が落ちます(音質やや上)。稀代のメロディ・メーカーである作曲者にしては、少々ツマらん作品じゃないか、そんな(不遜な)感想を持っておりました。第1楽章冒頭ぶちかましに少々引いたけれど、オイストラフ登場とともに伸びやかな旋律が素敵だな、と考えを修正いたします。これが第2楽章「アダージョ」に至ると、纏綿たる、節度を保った甘美なカンタービレにすっかり痺れてしまう・・・終楽章の細かい音型にも弾き流しなどあり得ぬ完成度。豊満な美音だな。ハイフェッツのように、神経質なほど鋭利なテクニックのキレではない、もっと余裕、たっぷり瑞々しい表現前面の〜やはり凄い技巧であります。

 とろけるような妖しい美音ではない、もっと健康的、晴れやかなヴァイオリンであります。最高。この作品もすっかり好きになりました。

 とくに言及しなかったが、コンドラシンのオーケストラは配慮ある立派なものです。

(2011年5月13日)


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written by wabisuke hayashi