Massenet バレエ音楽「蝉(Cigale)」/
Auber /Popper チェロ協奏曲(リチャード・ボニング/ヤシャ・シルバースタイン(vc))


ABC 475 070-2 Massenet

2幕のバレエ音楽「蝉(Cigale)」(1978年録音)

ナショナル・フィルハーモニー/ロンドン・ヴォイセス/イーニッド・ハートル(ms)

Auber (1782-1871)

チェロ協奏曲第1番イ短調(Douglas Gamley編)

Popper (1843-1913)

チェロ協奏曲ホ短調

ヤシャ・シルバースタイン(vc)/スイス・ロマンド管弦楽団(以上1973年録音)

リチャード・ボニング

ABC 475 070-2/1

 馴染みの薄い音楽、演奏家に見聞を広げるのは、音楽愛好家としての矜持であります。(エラソーに書いたけれど、たんなる珍しモノ好き)Richard Bonynge(1935-)はオペラ畑一筋、サザーランドの夫、英DECCAに膨大なる録音があって独墺系人気演目を担当していないから、日本ではほとんど注目されておりません。バレエ音楽の録音は多いけれど、実演では担当したことがなかった由、こうして「Undiscovered Recordings」として4枚にまとめられたのも、故国オーストラリアで尊敬されている所以なのでしょう。

 Jules Emile Frederic Massenet (1842-1912)って、ふだん仏蘭西オペラなんて聴かないから、ほとんど組曲(例えば第4番「絵のような風景」など)くらいしか知らぬもの。人気作品は「タイスの瞑想曲」でしょうか、想像するとあんな甘美な旋律かも。バレエ音楽「蝉(Cigale)」の詳細やら筋書きは調べはつかぬ2幕は各々21-2分、って「春の祭典」も似たような長さだ(ちょっと短い)から、バレエ音楽の決まりごとがあるんでしょうか、踊り手の体力問題とか。これが華やか、陰影と変化に充ちて、期待通り平易かつ夢見るように愉しい旋律が軽快!第1幕真ん中辺りに出現するチューブラーベル(鐘を模したものでしょう)も素敵でした。どーして知名度がないの?日本人はTchaikovskyのウェット憂愁な激甘旋律がお好きですか?

 第2幕は堂々たるファンファーレから哀愁、悲劇の風情も劇的なもの。4分45秒辺りからのワルツも露西亜の風情たっぷり(12分50秒辺りにも再現。露西亜音楽が仏蘭西の影響を受けたのか、その逆か)著名なるKhachaturianの「仮面舞踏会」を薄味にしたみたい。あとは舞台を彷彿とさせるような粋な音楽続きました。時代的に不協和音とか激しい爆発に非ず、メルヘン連続な美しい作品也。ラストに向け15分20秒過ぎに雷鳴が轟いて、安寧のヴァイオリン・ソロ(シドニー・サックスでしょうか)〜遠方よりEnid Hartle(1935-2008)天上の声風に1曲のみ登場(もちろん言語理解不能)ロンドン・ヴォイセス(女声のみか)の担当もラストのみ。

 英DECCAの録音に文句なし、ナショナル・フィルは上手いもんでっせ。

 Jascha Silberstein(1935-2008)メトロポリタン歌劇場の首席を30年間務めたとのこと。独逸系の人らしくてなかなか濃い顔しておりますね。もちろんその演奏は初耳。Auber とPopper チェロ協奏曲なんてその存在さえ知りませんでした。ダグラス・ギャムリー(1924-1998)って映画音楽の人らしいけど、Auber の原曲は別な作品なんでしょうか、それとも伴奏をいじったのか。これがHaydnの愉悦に浪漫(Schumann風)色気をまぶしたような、人懐こい雄弁な作品、けっこう劇的な旋律なんです。メトロポリタンのオーケストラって、レヴァインの登場までどーしょーもなかった(ドナルド・キーンさんの著作による)らしいけど、ヤシャ・シルバースタインの技巧は冴え渡って、素晴らしいキレと色気でしょう。終楽章「Vivace」に於けるほの暗い躍動が素晴らしい。

 David Popper (1843-August)は著名なボヘミアのチェリストだったらしい。こちらは映画音楽風にわかりやすい作風、シルバースタインのチェロは濃厚雄弁な表現朗々として驚くほど。これは世代、時代なのかな?ソロにはそうとうの技巧が要求される旋律はたっぷりと濃いから、表現はもっとサラリとしても良いでしょう。オーケストラはアンセルメ逝去後のスイス・ロマンド、かつての薄っぺらい響きに非ず、かっちりとしたアンサンブルで支えておりました。こちらの音質も良好。

(2015年7月25日)

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written by wabisuke hayashi