Mahler 交響曲第5番 嬰ハ短調
(オトマール・スウィトナー/シュターツカペレ・ベルリン)


CCC 0002702CCC 10枚組4,960円にてオークション入手 Mahler

交響曲第5番 嬰ハ短調

オトマール・スウィトナー/シュターツカペレ・ベルリン

CCC edelclassics 0002702CCC/07

 BBSにてお勧めがあり、再聴したもの。”再聴”といっても前回聴取の記憶一切なし。サイト内検索を掛けると2010年1月「音楽日誌」にて追悼としてちょろりと聴いておりました。

ベルリン・イエス・キリスト教会での録音。残響が理想的な瑞々しさで鳴っていて、オーケストラが木目の質感を感じさせる暖かくも地味な響き。作品の異形性とか”人生の懊悩”的強調ではなく、もっとオーソドックスな独墺系の交響曲としてのバランスを感じさせる、”美しく、落ち着いた”演奏です。深い厚みと奥行き、鈍く輝く艶消しのサウンドはほとんど理想的であります
こんなのが出て参りました。なるほど、その通り。でも、素っ気ないコメントだなぁ。

 オーケストラが木目の質感を感じさせる暖かくも地味な響き〜脳裏にはシカゴ交響楽団とか、ニューヨーク・フィルがあるのか。鳴らないとか、響きが薄いとか、そんなことじゃないんです。「木目の質感」「暖かくも地味」というのがキモ。Mahler は21世紀に至ってあちこちのオーケストラが意欲的に演奏し、多くの録音もあります。どれも技術、アンサンブルに優れ、細部明晰であり、洗練されている・・・ピエール・ブーレーズなんて洗練系の代表なんじゃないか。どちらが良いとか、正しいとか、そんな問題じゃないんです。個性の違いであり、嗜好であり、演奏スタイルの流行廃れなのでしょう。

 これは各々の楽章に微妙な味、色彩、テンポの変化を付け、全5楽章を有機的、まとまりのある交響曲として仕上げているのでしょう。第1楽章冒頭のトランペットは遠く、控えめに響いていつもと様子が異なります。第1楽章「葬送行進曲」/第2楽章「嵐のように荒々しく動きをもって。最大の激烈さを持って」は意外なほどさっくり進んで、絶叫大爆発ではない。大音量でも金管は刺激的に響きは濁らない(深く、太く、エエ音でっせ)。喧しくならない。細部旋律をきっちり明快に描き出す風ではない、やや素っ気なく、流れを重視して、作品は進んでいきました。テンポは旋律の緊張感に伴って自在に揺れております。弱音時の囁き風弱々しい風情は、計算されたものでしょう。

 第3楽章「スケルツォ」のレントラーは、かつて聴いたなかでヴェリ・ベスト。やや速めのテンポ、痺れるように牧歌的なホルン(先頭に、そして金管全体)が躍動して軽快に踊っております。このウキウキ感はめったに味わえぬ愉悦であります。アンサンブルが時に、ちょっぴり乱れることなど傷になり得ませんよ。ここでも繊細に囁き、テンポを落とし、そっと歌う場面が絶品であります。第4楽章「アダージエット」は、「Sehr langsam.(非常に遅く)」の指示ではなく、表題通りの「やや遅く」さらりと、起伏の少ない深呼吸。ここブーレーズの(珍しく)濃厚官能的な演奏が素晴らしかったが、地味な色彩、粛々として抑制の利いたシュターツカペレ・ベルリンの弦も負けず劣らず魅惑の世界であります。聴き手は思わず、息を潜めちゃうくらい。アンサンブルは見事だけれど、神経質に縦線揃えました!的風情に非ず、もっと”流れ”を重視したもの。

 終楽章「快速に、楽しげに」〜Mahler の交響曲第1番、第7番と並んで扱いやら全体とのバランスが難しいところでしょう。ここも一発目ホルンの伸びやかなサウンドに痺れていただきましょう。力み、どこにもなし。淡々とした風情が継続して、それはやる気やら推進力テンションが落ちていることを意味しません。落ち着いたオトナの世界なんです。激烈情熱金管大爆発汗水滂沱の涙を求める人は無縁の世界也。

 繰り返しになるが、優秀録音とはこのことを指す、と実感いたします。各パートは不自然に突出せず、金管は会場奥の方でちゃんと鳴っております。残響豊かであり、各パートは混じり合って不自然に分離しない、結果茫洋として、滋味深いサウンドが上手く捉えられておりました。打楽器が抑制気味なのはちょっぴり残念。これもバランスなのでしょう。

(2011年6月3日)

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written by wabisuke hayashi