Mahler 交響曲第9番ニ長調
(ヤッシャ・ホーレンシュタイン/
ロンドン交響楽団1966年ライヴ)


BBCL4075 Mahler

交響曲第9番ニ長調
ロンドン交響楽団(1966年ライヴ)

歌曲集「亡き子をしのぶ歌」
ジャネット・ベイカー(a)/スコティッシュ・ナショナル管弦楽団(1967年ライヴ/モノラル)

ヤッシャ・ホーレンシュタイン(Jascha Horenstein,1898-1973烏克蘭→亜米利加)

BBCL4075

 この詠嘆の名曲は先日、レナード・バーンスタイン/ベルリン・フィル(1979年ライブ)の熱血入れ込み演奏の毒気に当てられて、いろいろ考えさせれたものでした。たまに聴くのなら、そして一期一会のライヴの現場に居合わせればそれは貴重な経験、但し、日常座右に置いて作品を静かに愉しむにはあまりに刺激が強すぎる・・・こちら手許にある音源の点検整理に偶然出現したもの、少々昔のライヴ音源だけど、聴手の耳に胸にす〜っと素直に入ってくるような完成度の高い演奏と感じました。音質は良好。

 第1楽章「Andante comodo」から優しくていねいな出足、弦のゆらゆらとした囁きは「大地の歌」をそのまま連想させて大好きなところです。噛み締めるように呼吸深く落ち着いて、長さを感じさせぬ吐息のような詠嘆の集中力が凄まじい。中庸やや遅めのテンポはあまり動かさない、あわてず走らないけれど表情付けは入念、ロンドン交響楽団は弦も管も絶好調に艶のある洗練された響きでした。生のテーマは高らかに、死のテーマは抑制気味に(19分辺りは爆発!)ティンパニのアクセント、存在感が素晴らしい。熱血入れ込み系演奏に非ず、静謐と安寧が支配するようにムリのない表現、デリケートな第1楽章でしょう。(29:55/ここで思わず拍手有/調弦有)

 第2楽章「 Im Tempo eines gemachlichen Landlers. Etwas tappisch und sehr derb(緩やかなレントラー風のテンポで、いくぶん歩くように、そして、きわめて粗野に)」はのんびりとしたレントラー、落ち着いたテンポと噛み締めるようなリズムを刻みます。ノンビリとした開始から、やがてヴィヴィッドに(指示通り)粗野な低弦とティンパニのダメ押し、優しい静謐との対比表現は入魂!ラストに向けて熱狂的にテンポを上げても、安易には走らない。サウンドには艶とパワーがたっぷりですよ。とくに管楽器の厚みは魅惑。勢い余って途中アンサンブルがずれるのもリアル。そして途方に暮れたように静かに収束。(16:57)

 第3楽章「Rondo-Burleske: Allegro assai. Sehr trotzig(きわめて反抗的に)」ここはヴィヴィッドなスケルツォ。テンポは慌てず走らず、念入りに、明晰にリズムを刻んで重い。ここもライヴならではのアンサンブルの乱れが散見されて、オーケストラをコントロールするホーレンシュタインの指示が眼前に想像できるほど。金管圧巻の雄弁迫力は相変わらず、ラストの熱狂的アッチェレランドもやや控えめな風情。(バーンスタインはこの辺りの追い込みが尋常じゃない)(13:56まばらな拍手有)

 第4楽章「Adagio. Sehr langsam und noch zuruckhaltend(非常にゆっくりと、抑えて)」は陰影深くたっぷり自在に弦が歌ってテンポは中庸からやや遅め、リズムをしっかり刻んで清冽な雰囲気が漂いました。ロンドン交響楽団の弦は実力発揮して繊細+野太いホルンも朗々と存在感を主張。交響曲第3番ニ長調と並んで最終楽章は万感胸に迫って、人生の黄昏をシミジミ振り返るところ、最高傑作ですよ。スケール大きく、ダメ押しに情感の高まって入魂クライマックスを迎え、消えるように全曲を閉じました。(26:51熱狂的な喝采有)

 「亡き子をしのぶ歌」はモノラル収録でも音質は良好です。「いま晴れやかに陽が昇る」(5:23)「なぜそんなに暗い眼差しだったのか、今にしてよくわかる」 (4:49) 「きみのお母さんが戸口から入ってくるとき」 (5:00) 「いつも思う。こどもたちはちょっと出かけただけなのだと」 (3:10) 「こんな嵐のときに」(7:27)。実演に接して気付いたけれど、ほんの一部しか管弦楽は稼働しておらず、声楽を浮き立たせるのですね。オーケストラが変わってもホーレンシュタインの統率に変わりはない。Mahlerの一連の歌曲は言葉の壁を乗り越えて、こどもを失った哀しみが切々と伝わる傑作。Janet Baker(1933ー英国)は不世出のメゾ・ソプラノであり、この作品は十八番でしょう。交響曲第9番ニ長調の余韻に相応しい静謐な哀しみ、明朗な雄弁が広がりました。

(2023年4月22日)

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written by wabisuke hayashi