Mahler 交響曲第5番 嬰ハ短調
(グスターボ・ドゥダメル/シモン・ボリバル・ユース管弦楽団)


DG 4776545 Mahler

交響曲第5番 嬰ハ短調

グスターボ・ドゥダメル/シモン・ボリバル・ユース管弦楽団

DG 4776545 2006年ヴェネズエラ中央大学録音

いつもいつも昔懐かしい録音やら人ばかり聴いていても仕方がないからね。話題の若者達の演奏ですな。アマオケなんでしょう?もの凄く上手い〜流石メジャーレーベルに録音すべき水準也。技術的な不備はないし、思いっきりの良さ、勢い、リズム感がヴィヴィッドなことも特筆すべきでしょう。若者には甘い点を付けてもよろしいでしょう。但し、第3楽章以降に疲れが見られるし、全体として響きに豊かさとか、色彩とか色気(!?)とか、期待できない(当然、オーケストラの鳴りっぷりにも不足)のは当たり前。でもね、プロでもゆるゆる、クソつまらんありきたり演奏とは天と地ほどの違いはある・・・(「音楽日誌」2011年11月)
1年ほど前に聴いていて、あまり芳しからぬ印象(当たり前だけれど、固有の色個性を表出しきれない)を得つつ、若者達の演奏にちょっと敬意と配慮コメントしておりました。久々の感想は、意外なほど新鮮で一生懸命、そう悪い演奏ではない。ま、難しい作品なんだよね、どのような方向に仕上げるか。(「音楽日誌」2012年3月)
1981年生まれでっせ、この録音時点25歳!ユース・オーケストラってたいてい”上手いけど味が足りない”パターンが多いんだけど、ま、老熟したとは真逆、ストレート系(工夫が足りない?)溌剌として爽やか、テンションの高い演奏であります。この作品特有の官能とか怪しさとか、そんなものは彼らに求めませんよ。「アダージエット」にエッチさが足らんけど、これで良いんです。(「音楽日誌」2015年9月)
 ここ一ヶ月ノーミソがBruckner化して、お気に入りMahler拝聴は交響曲第10番 嬰ヘ短調(リッカルド・シャイー/ベルリン放送交響楽団/1986年)のみ。もうちょっと長いスパンだと、歴史的音源は主に音質的意味合いから拝聴機会は減って、1960年台音源だって”いつまでも昔馴染みばかり聴いてもなぁ”そんな感慨ばかり、少々反省してリハビリぼちぼちしているところ。今が旬のGustavo Dudamel(1981ー)は現在ロサンゼルス・フィルの音楽監督、ウィーン・フィル、ベルリン・フィルにも常連でしょう。流行りを追いかける趣味はないけれど、若いこれからの人は応援してあげたいもの。政情経済不安定な彼(か)の母国は大丈夫でしょうか。この録音はかなり以前より聴いていて、印象イマイチだったもの。しっかり腰を据えて聴いてみましょう。この作品も最近聴いておりませんでした。

 この作品は”オーケストラは上手くないけど味わい系”とか”曇りきった歴史的音源から徐々に真髄が見えてくる”とか、んなことはありえなくて、バリバリのオーケストラの技量+それなりのクリアな音質必須と思います。これは音質極上。ここではユース・オーケストラを起用、最近は(ユースに非ず)シモン・ボリバル交響楽団との録音が続いております。

 第1楽章「葬送行進曲 In gemessenem Schritt. Streng. Wie ein Kondukt.(正確な速さで。厳粛に。葬列のように)。冒頭のトランペットは第4番第1楽章からの流れ、あちこち登場して美しく、たいした技量だと思いますよ。静かな葬送行進曲はややテンションが弱いかな、第1トリオ(突然、より速く、情熱的に荒々しく)の爆発は若々しく爽快!しかし、静かな主部が回帰するとやはり緊張感やらタメが弱い?これは若者のオーケストラだからでしょう。第2トリオ(弦による暗い旋律)も同様、抜いたところの味が薄く感じます。(12:42)テンポはフツウ。

 第2楽章「Sturmisch bewegt. Mit grosster Vehemenz. (嵐のような荒々しい動きをもって。最大の激烈さをもって)こういった劇的に元気の良いところに若者は燃えるのでしょう。まさに”嵐のような荒々しい”開始。チェロによる物哀しい第2主題は静謐、やはりテンションが落ち気味じゃないの?ここはたっぷりエッチに詠嘆してほしいもの。展開部は若々しく硬質、チェロによる途切れ途切れな第2主題開始は弱い印象有。やがて全力でクライマックスを吟じるところ、金管のキレ、弦も立派なもの、最終盤の金管コラールも含め劇的な表現、一本調子にならぬ、緩急陰影も若者達の水準に非ず。(14:27)

 第3楽章「スケルツォ Kraftig, nicht zu schnell.(力強く、速すぎずに)」。明るい風情は全曲中最長、ここを中心に全曲対称配置のキモ。冒頭ホルンが上手いですね(楽章途中の長いソロも)続く木管もニュアンス豊か。レントラーのリズムは溌剌として朗々、諧謔と優雅な風情の対比もみごとなもの。第3主題の静謐な場面はピチカートと木管、毎度同じ繰り返しになるけれど、この辺りの緊張感が”弱い”かと・・・いえいえ、たいしたもんでっせ、これで。やがて明朗なレントラーが上機嫌に回帰して、オーケストラは爆発します。賑々しい元気いっぱい!ホルツクラッパーってオモロい効果ですね。ラスト渾身のテンポ・アップは溌剌と若々しいもの。(17:21)

 第4楽章「Adagietto. Sehr langsam. アダージェット 非常に遅く。もの凄くエッチなオトナの音楽。ド・シロウトはここに期待が高まるばかり。ねっとりいやらしく脂粉漂うように演って欲しい・・・けど、爽やかな若者達ですから。ニュアンスていねいに繊細、テンポの微細な揺れ、抑制際立つ静かな表現であります。ユース・オーケストラでここ迄美しい弦だったら文句なし、ドゥダメル25歳、寄せては返す緩急表現も驚くべきこと。清潔なサウンドに聴き手は官能を期待できない・・・けど、清純派が好き!という人もたくさんいるでしょ、きっと。(10:46)

 第5楽章「Rondo-Finale. Allegro giocoso ロンド - フィナーレ。アレグロ 楽しげに最終楽章は意外と難しいでっせ。前楽章の気が遠くなるような深遠神秘な世界から、いきなり俗世間に戻ったような?冒頭、爽快な目覚めのようなホルン、ファゴット、クラリネットの清潔なこと!低弦による細かい音型の第2主題のアンサンブルも見事、前半は抑制表現が決まって”いきなり俗世間に戻ったような”感もない、スムースな開始。この辺りヴィヴィッドな躍動感は若者らしく、優雅で懐かしい旋律も床しいもの。やがてクライマックスに向けて音量もテンションも(テンポも?ちょいと前のめり)上げていくけれど、端正なアンサンブル、生真面目さは崩れません。金管全開、頻繁なテンポの揺れは少々落ち着かない。それでもこのオーケストラの鳴りっぷり、元気の良い清潔演奏に保留を挟む必要もない締め括りでした。(14:09)

(2018年3月17日)

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written by wabisuke hayashi