Mahler 交響曲第10番 嬰ヘ長調
(Wheeler版1966年第4稿1997年改訂版)
(ロバート・オルソン/ポーランド国立放送交響楽団)


NAXOS 8.554811 1,050円(高い!税込み) Mahler

交響曲第10番 嬰ヘ長調(Wheeler版1966年第4稿1997年改訂版)

ロバート・オルソン/ポーランド国立放送交響楽団(カトヴィツェ)

NAXOS 8.554811  2000年録音 1,050円(高い!税込)  

楽譜を見る習慣がないので、クック版との違いはあまりわからず、純粋に名曲の一つとして興味有。でも終楽章はかなり違う〜というか、テンポがひじょうに速いということか。ロバート・オルソンとは初耳だけれど、カンザス・シティをベースにして活躍するアメリカの指揮者とのこと。オーケストラも、指揮ぶりもオーソドックスで素直、Mahler 固有の色気とか、懊悩とか狂気とかは縁が少ない。しっかりとした演奏で「版」を知らせる力量には充分な美しさ。名曲。(「CLASSIC ちょろ聴き」より)
・・・相変わらず、エエ加減なこと書いてまんな。2002年のコメントです。

 まず、要らぬ蘊蓄から。Mahler 交響曲第10番の全曲完成には、クック版(これも種々稿が存在する。ザンデルリンク改訂版も)、カーペンター版、マゼッティ版、バルシャイ版、そしてこのフィーラー(Wheeler)版があるそうで、現代に至ってずいぶんと録音が増えました。ちょうどCD一枚に収録される、といった長さも魅力なんでしょうね。

 イギリスの作曲家(ではなく、本職は公務員だった由)Joseph H. Wheeler(フィーラー版)は
1953年に完成版を着手し、1955年に第1稿完成。
1957年 ロンドンにてその一部を試演。
1959年 第3稿完成。1965年第3稿がアーサー・ブルーム指揮によってニューヨークで初演。
1966年 第4稿(最終完成稿)が ジョネル・ペルレア/マンハッタン音楽学校管弦楽団によりニューヨークで初演。
1996年 ロバート・オルソンが、レモ・マゼッティとオランダの研究者、フランス・ボウマンの協力を得てフィーラー版第4稿の改訂に着手。
1997年 オルソン、マゼッティ、ボウマンの3人により完成したフィーラー版第4稿の改訂版が、ロバート・オルソン/コロラド・マーラー・フェスティヴァル管弦楽団により初演(CD化されているらしい)、とのこと。(以上、ネットからあちこち勝手に検索調査引用)

BBCMUSIC  BBCMM124 入手困難 このCDは2000年録音だから、1966年第4稿(最終稿)+改訂版による録音でしょう。著名なるデリク・クック版(第2稿)の初演は1964年(ロンドン)だから、こちらもけっこう歴史ありますね。ちなみにデリク・クック版は現在(第3稿第2版)が最新であって、1999年ラトル/ベルリン・フィルによって録音されております。(時期的には1993年、マーク・ウィッグルズワース/ウェールズBBCナショナル管弦楽団が一番早い。雑誌BBCMUSICの付録としてCD化)

 主たる問題は(Bruckner同様)「云々版」ではなくて、美しい音楽なのか、演奏なのか、ということ。(正直言うと、楽譜を読む実力がないので詳細違いがわからない)ワタシはLP時代のウィン・モリス/ニュー・フィルハーモニア管(1972年。クック版第3稿第1版の初演と初録音)からずっと、お気に入り作品でした。「アダージョ」のみじゃなくて、全部5楽章まで楽しみたい。「アダージョ」「煉獄」のみだったらセル/クリーヴランド管が(大の)お気に入り。(評判悪いらしいが)

 流麗で、艶やか明快なる第1楽章。時にダルな印象の「アダージョ」だけれど、ポーランド国立放響は思わぬ洗練と、明るい響きで驚かせます。弦も管もよく鳴って、とても美しい。しっとり入魂系の演奏(例えばミトロプーロス/ニューヨーク・フィル1960年ライヴ)を念頭に置けば、ずいぶんとこだわりなく、さっぱりモダーンな印象。ラスト辺り不協和音が強烈壮絶に鳴り響き、その後を受けたティンパニ付加が(これは初耳か)妙に自信なさげなのが少々気になります。

 第2楽章「第1スケルツォ」そして第3楽章「煉獄」〜ウィン・モリス盤(クック版第3稿第1版)で聴いたときの巨魁なる怪しげな印象は、チューバの活躍?それとも、オルソンの解釈故か、穏和でもあり、バランスの取れた楽しいもの。急いた感じはありません。アンサンブルは洗練され、軽快です。ポーランド国立放響が特別に魅力ある響きであった記憶はない(もちろん録音上で)が、全体としてやや大人しく、カドが取れた演奏でしょうか。技術的に弱さはまったく感じさせない。

 第4楽章「第2スケルツォ」も同印象。もっとヒステリックな怒りで始まっていた記憶がありました。中間部の優雅なワルツがとても楽しい。ここ、もっとシニカルで異形な作品じゃなかったででしょうか。やがて打楽器群が小音量で収束していって、終楽章、衝撃の大太鼓連打で開始〜コレ、ニューヨークで見た消防隊員の殉職葬列の記憶ですよね。テンポ速め(モリス盤より2分半ほど短い)で、弦を中心とした静かな囁きは、練り上げられ極上に美しい。

 解釈テンポ設定問題(21世紀だし)か、楽譜の問題(フィーラー版が元々そういうものなのか)か、”怪しさ極まった”ものではなくて、さっぱりとした洗練を感じられます。第1楽章ラスト不協和音の回帰にしても、切羽詰まった悲壮感ではない。あくまで美しく、懐かしく、弦は(官能的ではなく)清楚な響きを誇ります。詠嘆の旋律はやがて木管(フルートの息の長さ)、金管(ホルンの叫び)を伴って、黄昏の懐かしさへと向かいました。

 いずれ、「版を知る」以上の価値と感動を以て楽しませて下さる一枚。やや、おとなしいか、爆発が足りない、艶がたりないのかな?という感触が残ります。ちょとスムース過ぎて、もっとギクシャクして欲しい!でも、座右に置くべき価値有。”1,050円(高い!税込)”〜というのは正直な感想だけれど、新録音に対する敬意のつもりでした。

(2005年9月2日)
 

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written by wabisuke hayashi