Mahler 交響曲第5番 嬰ハ短調
(ブルーノ・マデルナ/イタリア放送ミラノ交響楽団1973年ライヴ)


ARKADIA   CDMAD  028.4   4枚組 Mahler

交響曲第5番 嬰ハ短調

ブルーノ・マデルナ/イタリア放送ミラノ交響楽団

ARKADIA  CDMAD 028.4 1973年ライヴ録音 4枚組$7.96にて個人輸入

 6年を経ての再聴であります。滅多に聴かないんだから大量のCDを所有している意味はない、NMLのような商売が成り立つのは一理も二理もあるんです。CDは精力的に処分し、収納棚はすかすかに、そしてオーディオ環境も小さなディジタル・アンプに落ち着いてしまいました。年々物欲が枯れていくのだね。これじゃ、日本の景気回復もはかばかしくないはずだ・・・閑話休題(それはさておき)久々のブルーノ・マデルナの件。ケースを開けたら2001年9月21日に(亜米利加より)送付したとの送り状が入っておりました。光陰矢の如し。

 もともとブーレーズほど(作曲家兼指揮者として)の話題にならなかった人だし、こんな怪しげCDはもうどこにも売っていないでしょう(BBCとの第9番が入手可能)。正直なところ”処分し忘れた”といった感じで、ここ最近ディジタル期の音のええのん(もちろん演奏も!)が安く入手できるんです。わざわざこんな怪しい海賊録音盤に固執せんでも、といったところだけれど、偶然ネットで発見した自らのコメントがあまりに素っ気なかったので反省しての再聴〜売り払ってしまえば、二度と聴けないからね。音質は想像以上にずっと良好で、作品演奏の様子を味わうのに、ほとんど不足はない(でもモノラルだから出目怪しい音源なのでしょう)。もう、珍しさ勝負のみで人様に自慢するような年頃じゃありませんよ。

 ライヴだし、精緻なアンサンブルとは言い難いが、ゆったりとしたテンポ(どんどん遅くなる)、良く(しつこく!)歌って入念なる足取りの第1楽章「葬送行進曲」であります。トランペット大活躍であり、ライヴ故の乱れは散見されるけど、頑張ってますよ。全体に旋律やや引きずりすぎて、散漫なる印象はあるけれど。第2楽章「嵐のように荒々しく動きをもって。最大の激烈さを持って」は迫力充分。「人生の懊悩」とは大げさだけれど、かなり粘着質に、たっぷり味付けして揺れ動く演奏。但し、オーケストラの特質か?意外なほどクリアで、見通しのよろしい響きではあります。

 第3楽章「スケルツォ」は、乱れまくる金管が妙に明るく、怪しい。途中からテンポ・アップしていってアツく、それはたしかに”焦燥感”かも。この楽章の”揺れ動き”も尋常じゃなくって、これは好みを分かつ演奏でしょう。著名なる第4楽章「アダージエット」もテンポかなり遅く、抑制が利いて静謐かつ入念なる弦であります。全然艶々じゃないし、厚みもそう感じられないが、構成組み立ては上手くて、ちゃんとした盛り上がりと歌、間、そして結末としてのまとめは上々の完成度也。ここが白眉!との6年前コメントもあながちウソっ八ではない。

 終楽章はアンサンブルがガタガタで、縦の線がぜんぜん合っておりません。合うことのみが必須とは思わぬが、かなりガタガタ、へろへろ、あちこちもたつきがあって、テンポ設定にも違和感ばりばり、整合性を欠く場面が・・・せっかく「アダージエット」がよろしかったんですけどねぇ。残念。もともと、少々違和感のある作品楽章構成なんだけど、とくにそれが目立っちゃう(ちょいとヘタクソな)演奏でありました。迫力と熱気はたっぷり有。熱狂的な拍手収録。(蛇足だけれど、第5番全曲収録後、第3番の第1楽章が一枚に収納されます。ぎちぎち)

(2010年1月22日)

 数年前に購入したARKADIA 「ブルーノ・マデルナ・シリーズ」より。(もう入手困難でしょう)滅茶苦茶混沌として楽しげな第3番にはコメント済み。ワタシはMahler の美しい旋律が大好きです。それは優秀なるオーケストラによる集中したアンサンブル、人生の懊悩に満ち、しかも自然体の表現であることが望ましい。録音状態が良好であるべきは前提と思います。じゃ、このブルーノ・マデルナ盤は?

 音質は「非常識でない程度」(第3番より落ちる。モノラルじゃないの?)でしょうか。オーケストラのアンサンブルは優秀とはいえず、個々のメンバーの技量云々というより、ブルーノ・マデルナが「アンサンブルを整えることに興味がない」といった風情。第1楽章冒頭のトランペットからして少々頼りなく、しかも、あちこち脈絡なくテンポが揺れちゃう。それは、まるで感情の起伏がつぎつぎと押し寄せるようでもあり、まさに「人生の懊悩」そのものでもあるように聴こえます。いや「遣り場のない怒り」みたいなものか。

 ワタシはバーンスタインの1964年盤の熱狂を連想したが、イタリア放送ミラノ響はニューヨーク・フィルがいかに不調時であっても、その技量には歴然たる差があって、こちらはもっと危うい演奏に間違いはない。しかし、一種異様な混迷した精神状況を(結果として)表現しているようでもあり、聴いていてドキドキすること請け合いです。整然とした美しさを拒否した演奏。旋律はバラバラにされ、それは再度統合されず、そのまま放置されました。

 すましてイキな第3楽章ワルツだって、即否定のテンポ・アップがある。焦燥感が立ち上ってきちゃう。勢いが付いて、絶叫が始まります。この作品の白眉「アダージエット」は、細部いやらしいほどに感情を込め、ルバートの連続となります。呼吸としては不自然な旋律表現であり、息も絶え絶え〜抑制された、というのではない、一生懸命ガマンして、なんとか音量を抑えた、的静謐さが支配します。ここは演奏的にも白眉!オーケストラの弦は清楚な響き。ゆったりとしたテンポは、この楽章いつまで続くのか、と感じさせます。

 終楽章はややツカれも出たのか、やや流し気味であり、異形なる風情はありませんね。喜びに充ちた大団円を期待すると少々ハズされて、サラリと(意外と)まともにまとめ上げて終了しました。成績良好スポーツ万能的優等生からは縁遠くて、「ちぇっ、なんか文句あっかよ」的、斜(ハス)に構えた、変化球的演奏で、しかも少々騒がしく、楽しい。

 こんなMahler も楽しいものです。(2004年11月25日)


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written by wabisuke hayashi