●To おたよりありがとう

Prokofiev 交響曲第1/7番
(アレクサンドル・ラザレフ/日本フィル2009年1月サントリーホール)


(いつものヘムレンさんより、いつものラザレフのCD感想が届きました)

プロとアマチュアということを時々考える。アマチュアはたまにプロに勝ったりするとニュースになるが、プロはそうした闘いに常に勝ち続けないとニュースにならない。ここがプロとアマの違いで、それは大変に大きな違いであるといってもいい。勝ち続けることは容易ではない。

そんなことを思ったのは、ぼくが勝手に師と仰ぐ、アレクサンダー・ラザレフという音楽家・指揮者の活動が、あまりにも凄いからだ。

前にもちょっと書いたかもしれないが、ラザレフはもともとロシア生まれの指揮者で、ボリショイ劇場オーケストラの指揮者を長らく勤めた。そのころの録音にも素晴らしいものがあるのだけれど、その後イギリスに渡り、スコットランド国立管というオーケストラでショスタコーヴィチの交響曲の全曲演奏をやった。ぼくは不思議な縁があって、その中の代表作である5番のシンフォニー革命をロンドンで聞いてしびれてしまった。

ラザレフは数年前から時々来日しては日本のオーケストラに客演するようになった。最初は日本フィルとショスタコーヴィチの11番を演奏したのだけれど、これにはもうぼくは落涙し通しの感動の演奏会だった。

さらにラザレフ師は読売日本交響楽団とチャイコフスキーの交響曲全曲演奏を始めた。ぼくはそのころあまり日本にいなかったので、それらの演奏会にほとんど行けなかったのだけれど、Extonという日本のレーベルが全曲を録音してCDとして発売した。それを聞くと、4、5、6番の有名な後期シンフォニーが、それぞれに異なる彩色で、あるときはきらびやかに、あるときはしめやかに悲しげに、あるときは激しく燃え上がるように演奏されていて、その完成度に驚いた。また、やや知名度に欠ける1,2、3番のシンフォニーの演奏も明るく弾むようなリズムで演奏されていた。これほどバランスに富んだチャイコフスキー交響曲全集はこれまでにあっただろうか、と思った。

そんなことを経験しつつ、いったいラザレフ師の「次の一手は?」と思っていた。するとこれまた驚くことに、2009年シーズンから日本フィルの常任指揮者に就任し、何とプロコフィエフの交響曲を全曲演奏すると発表された。これはぼくのなかでは昨年の重大ニュースの一つだ。

う、それにしてもプロコフィエフの交響曲?一番の「古典」と呼ばれる交響曲くらいなら聴いたことあるけれど、それ以外、あまり聴いたこともないな。さっそく予習を始めたものの、ぼくは少々、このシリーズを自分が楽しめるのかどうか、不安になったのだった。

そして記念すべき、ラザレフ・日本フィルのプロコフィエフ交響曲の全曲演奏のオープニング、2009年1月@サントリーホール。演目は1番と7番、つまり最初と最後のシンフォニーを演奏しようというものだ。

会場で聴いていたぼくは、特に7番の演奏に引き込まれた。冒頭のピアノと弦楽器で始まる幽玄なパッセージは、喧騒の都会の真ん中にあるコンサートホールを、一瞬のうちに満天の星空に変えてしまった。3楽章ははかなくも美しいメロディで、幼いころに駆け回った山間の野原が目に浮かんだ。

最終楽章は激しくも抑制されたオリジナルバーションと、ソ連政府の指導で派手で軍楽っぽい風体に書き換えさせられた修正バージョンの2つが演奏された。やはり消え入るように終わるオリジナル・バージョンの方が勝っているのは明らかだろう。

それにしても何たる演奏だろうか。4楽章の冒頭の小走りするような軽快なリズム感と高揚。その後、激昂するときには弦楽器と管楽器が強烈に絡み合いながら蛇行する。打楽器が僅かに前のめりに激しく叩かれる。

この演奏会をライブで録音したCDがExtonから出た。自分が行った忘れえぬ演奏会がライブ録音でCDとなるのは、至上の喜びである。おそらくExtonさんは全曲を録音するつもりであろう。今年の愉しみが一つできた。

(2009年7月23日)

【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
▲To Top Page.▲
written by wabisuke hayashi