「佳き演奏」とはなんでしょうか


 7月に入ろうとしています。本格的な夏は間近。ワタシは「冬の寒さにへこたれ、夏の暑さにも負け」状態がなさけない。食欲が落ちるはずのムシムシした梅雨時、激暑、効きすぎた冷房の中でも、「ちゃんと食べておかなくちゃ」と体重は結果として増えるいっぽう。「食欲がなくなったら食べない」ほうが、むしろ健康への道なのでしょうか。閑話休題。

 ひさびさ、岡山市の中央図書館にCDを覗きに行ってきました。職場のすぐそばなのですが、品揃えがマニアックでクラシック音楽関係もなかなかなんですよ。いわゆる「駅売海賊盤」も散見されるから、市民からの寄付もあるんだろうと想像されます。無料で借りられるし、CDはLPほどに傷の心配もないので、便利なものです。

 じつは遅ればせながら、とうとうMDデッキを買いまして、その取り扱いの便利さに感心。(音質はまぁまぁ)最近、「激安CD」を売っているような大都市に出かける機会が激減した関係もあって、図書館で借りて、いままで聴き損ねた有名CDでもMDに落とそうか(掟破り!)、と不埒な考えを思い立った次第。

 Bruckner 交響曲第8番で、1994年に朝比奈 隆がサントリー・ホールでライヴ録音した有名なのがあるじゃないですか。あちこちの本で熱狂的な評価を見かけるし、拍手が15分以上続いた(それも収録されている。なんか最近NHKホールで、拍手の記録を更新したとか)ので有名なCD。

 ワタシは大阪にながく住んでいたのに、朝比奈翁の演奏はついぞ聴く機会がなかったし、現在では聴こうと思ってもなかなか演奏会に行けないほどの人気。このかつてない人気沸騰ぶりは、不況に喘ぐクラシック業界での一筋の希望でもあります。でも、ワタシはほとんど彼のCDも聴いたことはない。(廉価盤が出ないから〜1,500円のはワタシにとって廉価ではない)天の邪鬼なんです。

 1975年の聖フローリアン協会での第7番のライヴも、一度聴いたきり(DATで眠っている〜こんど真剣に聴きます)で、「オーケストラのテンションが低いな」といった感想でした。(なんて乱暴な聴き方)

 で、この第8番。(これはちゃんと数度聴きましたよ)やはり「オーケストラのテンションが低い」といった印象を受けました。サントリー・ホールは優秀な響きを誇るホールだそうですが、最初「残響が足りない」〜じつはそうではなくて、オーケストラのそのものの潤いの不足がそう印象づけている、と想像されます。アンサンブルの粗さ、時として見られる弦の薄い響き、管楽器の奥行きのなさは、やはり気になる。(がんばれ大フィル!)

 しかし、なんどか聴き進むにつれ、(ワタシにとって最上の演奏ではないにしろ)感じるところが増えていく手応えを得ました。ヴァントなどの、スケールと精緻さを兼ね備えた演奏に馴染んだせいでしょうか、Brucknerに相応しい、奥行きのある響きに遠いことは不満ではあります。でも、スケールは大きい。音楽の流れと呼吸は自然で、深い。ははぁ、ファンがハマるのはこのあたりだな、と目星をつけました。

 ライヴだと、会場の空気そのものが熱くて細部の弱点は隠れるでしょうし、音楽の鮮度が違うから、これは貴重な体験になるかも。でも録音-再生の世界では少々辛い点を付けたくなります。(どちらが正しいか。ナマに決まっているでしょ) これが、仮にアレクサンドル・ボロゾーキンスキー指揮カムチャッカ交響楽団(2枚組980円 ソルジェニツィン・レコード WH-2)の表記であれば、ワタシはかなりの高評価をするのは間違いない。

 出かけた演奏会がすべて「超名演」とは限らないし、手持ちのCDをすべて「不滅の名演」で揃える必要もないでしょう。だいたい「名演奏」なんて、時代や地域によってコロコロ変わります。もともと趣味の世界なんだから「オレはこれが好き」でいいんですよ。朝比奈ファンの方々すみません。

 最近、昔から存在だけはよく知っている Mozart のピアノ協奏曲全集(アンネローゼ・シュミット/マズア/ドレスデン・フィル 0001502CCC 10枚組2,590円)を購入しました。安定して、オーソドックスで、キズはどこといってない演奏なのですが、新鮮さとか、ひらめきとか、霊感に欠けてややツマらない。(一度くらい聴いただけで、そんな評価しちゃマズいが)

 そういった意味では、朝比奈翁のBruckner 交響曲第8番は問題意識横溢で数々の発見がありました。楽しめる演奏でした。

(2000年6月28日)


フランク交響曲ニ短調(朝比奈/北ドイツ放響)のページもあります。(いちおう)


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written by wabisuke hayashi