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謙虚ではなく
(ヨーゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団のBeethoven 交響曲全集購入)


 音楽はわからない。感動がわからない。入れ込みが出来ない。好みの方向の演奏家がいて、その音源を欲しいと(子供の頃から)思い続け、実際(偶然)入手する(できる)機会も多いが、八方手を尽くして探したり、ムリして注文したりしないのは、実物を眼前にしたときに”想い”が萎えることが怖いからです。夢は夢のままでいいじゃないか、と思います。いろいろサイトに文書を載せているが、ほんまに感動したら「感動した!」(おお、どこかの某首相か?)としか言えないのではないか。一瞬発熱する音楽への情熱は移ろいやすいものだから、せめて忘れないうちに書き留めましょう、という行為のつもりか。

 「欲しいCD、そして宿題など」という一文を、一年前に書いておりますね。おそらくは、ほんまに欲しいのではない、話しのネタであるに違いない。少々出費すればきっと入手可能ですから。ほどなく、バルビローリのSibelius 全集は入手したが、彼の素晴らしきマジックは未だに理解できない。何故良いのか、がわからない。ムリして入手せず「格安で眼前に出現すれば・・・」なんていう保留条件を付けるのは、期待外れだったり、聴き手である自分の感性が(いつの間にか)変質していることが怖いからです。

 クリップス、シューリヒト、ハイティンク、クーベリック、コリン・デイヴィス、ジョージ・セルが好き。リヒテルが好き。Mozart が好き、Bach も。それはそうなんだけど、全部集めよう、聴いてやろう、すべてを絶賛しようとは思わないんです。その方向が好き、ということであって、執着は全然なし。謙虚ではなく、入れ込んでいないだけ。某指揮者、某ピアニストが大好き!演奏会に涙を流し、その情報音源に執着して・・・という方は羨ましい。

 自分のご贔屓が批判されれば喧嘩も辞さず!的、ネット世界ではありがちの「アイデンティティ同化」にワタシは無縁です。それは謙虚ではなく、単なる中途半端な姿勢を意味しているだけなんです。

 EVEREST EVC 9010/14 1,554円にて購入クリップス/ロンドン交響楽団のBeethoven 交響曲全集(1960年)は、正規音源でちゃんとしたものが欲しかった。海賊音源で全集3回、一部の作品は計4回CDを買っていて、音質に耐えきれず売り払いました。(これを馬鹿と世間は呼ぶ)LP時代、それなりのちゃんとした録音水準を知っている、自分にはツラいものがありましたから。じつは2003年にかなり安価で(正規ライセンスと類推)再発されていたことはあとで知りました。

 過去にも数回書いたつもりだけれど、ことの経緯をまとめてみましょう。

(1) 存在を知る。

 おそらく1970年前後だったか、コロムビア・ダイヤモンド1000シリーズ(安田さん、いつもお世話になっております)という廉価盤の全集担当としてクリップス/ロンドン響の存在を知ります。当時、生意気盛りの中学生だったワタシは「無名B級(なんたる言い種!)指揮者」としてクリップスを認識していたはず。滅多におみやげなど買わない親父が、職場からこのパンフレットを持ってきて「買ってやろうか」との厚意だったのに、それを断ったバカ者であったワタシ。

 爾来、その罰当たり呪いが解けるのに30幾数年の時間が必要でした。

(2) LP時代。

 中古LPで交響曲第9番ニ短調「合唱」を入手。ワタシはその飾らない、ほとんど澄んだ真水の如き演奏が気に入りました。1980年頃だったでしょうか。すると数年後、Bescol(The Best Collection On Budget Compacts)というレーベルで第1〜8番まで(おそらく@1,200。当時としては格安)CDバラ買いで入手できて、感激したものです。

 ところがLPである第9番に比して、CDのほうはあまりに音質が酷い。演奏に不満があるわけじゃないが、せっかくCDにしたんだし、もっと条件の良い音質で、とか、当時は「レパートリーは一種類のCDがあればいいや」と考えていたせいもあって、友人に@500で譲り渡しました。

(3) CD時代へ。

 1990年頃だったと思います。SONIA CLASSICSというレーベルで全集ボックスが出ました。漆黒の素敵な紙箱に収納され、今となっては価格の記憶もないが、5,000円くらいだったでしょうか。まだ@1,000が存分に廉価盤だった時代。ああ、ようやくちゃんとCD化されたか、と喜んだけれど、悪質な「LP板起こし盤」でしたね。

 LP時代、交響曲第9番は第3楽章途中で途切れ、盤を裏返したものです。それが忠実にCD上のトラックとして再現されちゃう。「板起こし」自体はCD化の方法としてまともなものも存在するが、ブーンというノイズも盛大で劣悪な音質でした。つまりは海賊盤。即売り払いました。

(4) (続)CD時代へ。

 1995年博多へ転居したワタシは、ご当地の中古屋でBescol全集と再開します。これけっこうあちこちで(ボックスとして)見掛けました。たしか2,500円〜ある日とうとう耐えきれず購入・・・やっぱり音質がガマンできず即処分(過去の失敗を教訓化できないことを、人はアホと呼ぶ)。この時点、タワーレコードで正規全集を目撃しているが、おそらく8,000円はしたはずで手が出るはずもない。

(5) (続々)CD時代へ。

 この音源はいろいろ出ていたみたいで、「FAT BOY」というレーベルでワタシは2枚入手しております。(交響曲第7/8番、交響曲第3/4番)この音質は悪くはないが、左右逆収録というものもあって、やはり正規ライセンスではないと類推されます。(後、処分済み)

 また、駅売海賊盤風のものが数曲発売されており(現在も存在するらしい)、これは先に述べたSONIA CLASSICS音源を流用したか、流出したものとのことでした。

(6) 結論。

 じつは2003年に「REGACY」とかいうレーベルで正規復刻(しかも格安)していたらしいが、そのことを知ったのは最近でした。ワタシはクリップス全集はずっと欲しかったが、ムリして探すことはしなかったんです。2005年4月8日(金)偶然に立ち寄った駅前中古屋さんにて5枚1,554円、静かにワタシを待っておりました。出会いの妙ですな。

 ついに正規EVEREST全集入手へ。感慨はあるが、感激はない。感動が待っているかどうかは、じっくり音楽を聴いてからじゃないとわからない。延べ投資壱萬数千円をはるかに超過。粛々と音楽を楽しむのみ。先入観も期待もない。流れてきた音楽に虚心に耳を傾けるだけなんです。ワタシは謙虚ではなく、ただのアホか。でも出会いを大切に、チャンスは逃さなかった。

written by wabisuke hayashi