Jacomo Facco 協奏曲集 作品1「和声復興への考察」
(グリエルモ(v)/ラルテ・デ・ラルコ)


deutsche harmonia mundi(SONY/BMG) 1999年録音 88697 281822/18 50枚組5,742円にて購入分の一枚 Jacomo Facco

協奏曲集 作品1「和声復興への考察」(全6曲)

第1番ホ短調
第2番 変ロ長調
第3番ホ長調
第4番ハ短調
第5番イ長調
第6番ヘ長調

Vivaldi

協奏曲ト短調 RV157

フレデリコ・グリエルモ(v)/ラルテ・デ・ラルコ

deutsche harmonia mundi(SONY/BMG) 1999年録音 88697 281822/18 50枚組5,742円にて購入分の一枚

 「安いCDを買えば、所詮その値段分だけの聴き方となる」「いくら安くてもボックスものは結局ちゃんと聴かないから絶対に買わない。必要なもののみバラ買いする」というネット上の論旨を伺いました。一理ある、どころか、おそらくそちらが正論でしょう。LP時代ともかく、1990年前後より”硬派廉価盤一筋!”でやってきたワタシは、この趣旨をそのまま体現してきたような自覚もあります。2006年より足かけ3年間、その反省もあってずいぶんと大量に、安くオークションにて処分を重ね、聴くべき音楽の精査を行って参りました。

 でもね、やっぱり、”廉価盤”、”激安ボックス”購入は止まっていない・・・それは”出会い”を求めているから。ワタシは世間的に人気の名曲に敬意を表しつつ、苦手作品はたくさんあります。嫌いな演奏、理解しがたい著名演奏家も数多い〜でも、いつか目覚めるかも知れませんから。それに自分の狭い嗜好に凝り固まると、音楽そのものに対するマンネリが生じるかも知れない。この”50枚組”購入は少々無謀かな?と感じておりました。だって、不眠不休で聴いて50時間以上=2日間完全徹夜ですよ。しかも、味わって愉しむんだったら繰り返し、比較聴取も必要でしょう。だから棚中死蔵させる可能性は高い。

 それでも”出会い”ありました。たくさん。単発買いじゃそんな機会はきっとなかったでしょう。Jacomo Facco(1676〜1757/Vivaldiと同時代、ヴェニスに生まれ、スペイン宮廷にて活躍した由)は初耳だったし、フレデリコ・グリエルモ(v)/ラルテ・デ・ラルコも(最近活躍の現役演奏家の知識は薄いから)名前さえ聞いたことがなかった。(ヴェニスにあるVivaldi時代の楽器を借りて演奏している古楽器団体とのこと)これが、作品、演奏、録音ともモーレツに鮮烈!最高。

 目隠しで聴かせれば誰だって「Vivaldiでしょ?」と感じること必定のクリソツさ。うむ、そうなんだけど、ここ数年ワタシはVivaldiに厭きていて少々敬遠気味、これだったらなんの文句もない躍動と愉悦の連続作品なんです。おおよそ6分〜12分の3楽章制(ほぼ)ヴァイオリン協奏曲集となります。このソロが、いわゆる”古楽器臭さ”皆無の豊かな響きを誇って、滅茶苦茶上手い。

 第1番ホ短調は、冒頭短調の出足だけれど暗い旋律ということではなく、劇的なテイストのための調性なのでしょう。しっかりとした足取りで、多彩に良く歌うヴァイオリンであり、通奏低音(チェロの躍動とポジティヴ・オルガンの効果)がしっかり支えて強烈なリズム感で進めます。第2楽章ヴァイオリンは表情豊かにたっぷり歌って装飾音も華やか。終楽章はフーガが見事な緊張感を作り出しました。第2番 変ロ長調は、破顔一笑なる軽快で明るい出足。でも、ときに暗転もあって旋律の変化は多彩であります、相変わらずリズムはノリノリ。第2楽章はかなり深刻な、一歩一歩確かめるような厳しい音楽であり、終楽章は対比も素晴らしく優しい表情が(やはり軽快に、そして暗転もあり)流れるように歌われました。旋律のふくらませかたが、ほんまヴィヴィッド!

 第3番ホ長調は、柔らかく穏健な始まりです。屈託のない旋律が朗々と歌われました。第2楽章は前曲第2番に似た、ほの暗い決然とした味わいがあり、第3楽章はゆったりとカラダが揺れるような3拍子であって、牧歌的な作品印象を締め括りました。第4番ハ短調は、印象としては「Vivaldiの冬」(の緊張感)に少々似ており、しかし表情は刻々と変化して劇的だけれど、その一方でもない明快な表情もあちこち顔を出します。第2楽章をしっかりとした足取りでリムズを刻むのはパターンですね。朗々としたヴァイオリン・ソロがやがて切々とした情感を歌って、それをポジティヴ・オルガンがしっかり支えております。終楽章は一気呵成な勢いであって、やはり「冬」を連想させました。

 第5番イ長調〜これもVivaldiにクリソツ(ピッコロ協奏曲辺りの旋律に)。狩りに出掛けるような、しっかりとしたリズムと勇壮さ。第2楽章は思わぬオルガンからの入りであって、すぐヴァイオリン・ソロが絡んで切々と”泣き”が続きます。ここの哀愁は個人的に白眉!ここではチェンバロもちゃんと聞こえます。終楽章も主旋律にオルガンが被さっているのか、不思議にまろやかな音色を誇って、自在な装飾音とあいまって〜やはり暗転もあって〜堂々たる足取りの締めくくりでしょう。エエ曲だ。第6番ヘ長調も楽しげ、賑やかでウキウキするような旋律です。第2楽章は「夏」のそれに似てますよ、ヴァイオリン・ソロが。第3楽章はそっと、小走りに始まって歓びが徐々に高まっていくような憧憬の音楽となりました。

 Vivaldi 協奏曲ト短調RV157収録の意味はなんだったんでしょうか?ほんま作風はクリソツであって、全然違和感なし。同形の下降旋律が繰り返されて、徐々に感興が高まっていく手法はまったくお見事。変化、暗転という点でFaccoのほうが多彩だけれど、同一楽章での感情の統一感は、Vivaldiがたしかにわかりやすい。シンプルな繰り返しが聴き手への説得力であることに間違いなし。名手達のワザの成果か、感銘深く拝聴いたしました。この調子だと他の作品もたっぷり愉しめるかも。

written by wabisuke hayashi