Denisov 「ヴァイオリンと室内管弦楽によるパルティータ」(Bach による)
Shostakovich ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調(コーガン(v))


Denisov 「ヴァイオリンと室内管弦楽によるパルティータ」(Bach による)/Shostakovich ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調(コーガン(v))
Denisov

ヴァイオリンと室内管弦楽によるパルティータ(Bach 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004による)

パーヴェル・コーガン/管弦楽団(1981年ライヴ)

Shostakovich

ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 作品99

キリル・コンドラシン/モスクワ・フィルハーモニー(1959年ライヴ)

Saint-Sae"ns

序奏とロンド・カプリチオーソ イ短調 作品28

アレクサンドル・ガウク/大交響楽団(1951年ライヴ) レオニード・コーガン(v))

BRILLIANT 93030/2  10枚組3,843円にて購入

 仕事上、予想外のトラブルで気分も暗鬱なる昨年(2006年)末押し迫った(せっかくの)日曜日。「一年間、なにやってきたんだ・・・」〜どんな音楽を聴いても気分は晴れません。

 数日前、届いた「コーガン10枚組」も一枚目に取り出した、Beethoven ヴァイオリン協奏曲ニ長調(1970年ライヴ)の音質が優れず、ティンパニばかりが乱暴に目立つ演奏でがっかり・・・で、Scho"nberg 室内交響曲第1番 作品9(Webernによるピアノ五重奏版)〜ゲロルト・フーバー(p)/ハイペリオン・アンサンブル(2002年)を聴いて理解できました。こんな晦渋苦渋に満ちた音楽は、こんな心象のためにあると。誰でも不安な甘美を求めざるを得ない現代社会。安らぎに逃げるのでもなく、Beethoven のように真正面から戦うのでもない、現状を抽出したかのような怪しい音楽こそ時に必要なのでしょう。

 ちょっと元気出ました。

 件の「コーガン10枚組」2枚目は「Denisov」(エディソン・デニソフ)の作品が収録されている、ああ、苦手なShostakovichのヴァイオリン協奏曲第1番も入っているね。これはコンドラシンの交響曲全集に含まれているものと同じなんだろうか・・・(違いました。表記を信じればあちら1962年)ヴァイオリンと室内管弦楽によるパルティータは、仰け反りますよ。ほとんどソロはBach 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004(ラストに著名なる”シャコンヌ”含む)でして、それに管弦楽が盛大に絡むんです。(単旋律楽器に色付け、みたいな生優しいものじゃない)

 ワタシはかつてストコフスキー編の「シャコンヌ」に、人類の根元的罪悪の贖罪に、オーケストラ各パートが次々と参集するような幻想を見ました。Denisovはせっかくの「贖罪(=ヴァイオリン・ソロ)」に不協和音を以て野次を飛ばすんです。コーガンは揺るぎなく、意地になって屹立し続けるが、まわりの雑音(オーケストラ)はいや増すばかり。非常に腹立たしく、きれい事では済まされない現代社会の汚泥を連想させます。コーガンのソロだって、妙に力んでよそよそしい。

 Webernの「六声のリチェルカーレ」には、とぎれとぎれの旋律の受け渡しに、妖しい美しさを感じたものです。時代は更に進んで、人類はこんな音楽を聴かなければいけない事態に至った・・・ヒリヒリするような音楽。

 Shostakovichのヴァイオリン協奏曲は以前から苦手であって、LPでもCDでも購入したことは(ほぼ)なかった?と思います。(第2番にはヴォルフガング・レーシュ(v)のCDが棚中にありました/でもほとんど聴いていない)暗鬱難解なる作品であって、不安げに静謐な第1楽章(夜想曲)でのコーガンは、艶やかで硬質の集中力を誇って美しい。苦悶に充ちて、呻吟しているようでもある。

 第2楽章「スケルツォ」の躍動推進力激しいが、表情あくまでも暗く、シニカルなユーモアに迄行き着かぬまま大爆発へ。ヴァイオリン・ソロの技巧は驚くべき冴えであります。コンドラシンのバックも文句ないテンションの高さ。第3楽章「パッサカーリア」は重厚堂々たる主題提起から(やはり)暗鬱なる変奏曲が延々と続きました。ここでのヴァイオリン・ソロは纏綿切々と歌って、息苦しいくらい。もがき、苦しんでいるような、絶叫が聞こえるような劇的楽章です。カデンツァはBach を連想させました。

 終楽章「ブルレスケ」(「道化の輪舞」の意)快速疾走の楽章だけれど、感情が読みとれない(哀しい?楽しい?)ような、例の如しのShostakovich節であります。この時期のコーガン(35歳)の技量は脂がのりきった、といった壮絶ぶりでしょう。ノーミス。喰わず嫌いのワタシはけっこうこの作品を堪能いたしました。音質も良好。

 名曲「序奏とロンド・カプリチオーソ」は端正で気高く、背筋が伸びた演奏であります。急かない、間を詰めない、細部までていねいに表現して清潔です。27歳若者の、才気走って超絶、しかも清潔爽快なる表現であります。音質も信じられないくらい良好。この一枚中、1981年のDenisovが一番肌理の粗い録音となります。

(2007年1月19日)

【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi