Debussy 「牧神の午後への前奏曲」「夜想曲」「海」
(アレクサンダー・ラハバリ/BRTフィルハーモニー)


NAXOS	8.330262  1989年録音 Debussy

「牧神の午後への前奏曲」
「夜想曲」
雲/祭/シレーヌ(海の精)
交響的素描「海」

アレクサンダー・ラハバリ/BRTフィルハーモニー/合唱団(ヴィエ・ニーズ指揮)

NAXOS 8.330262  1989年録音 350円(中古)にて購入

 アレクサンダー・ラハバリ(1948年〜)はイラン出身の中堅であり、NAXOS(初期)、DISCOVERという廉価盤レーベルに大量の録音を残している実力者です。ワタシは「知名度一切気にせず!」的音楽愛好家であり、ブリュッセルの放送オーケストラも、”ラハバリ”という名前もNAXOS登場とともに知ったものです。最近録音は少ないようだけれど、きっと活躍されていることでしょう。

 このオーケストラ、独墺系の重厚分厚い音楽には似合わないだろうが、思いの外清涼で素直な響き、低音も色気も薄い。美人だけれど、病的に色白で痩せすぎでセクシーではないか。Debussyに相性よろしく、アンサンブルも優秀でした。「牧神」は、オーケストラの実力がモロに出る作品だと思いますよ。ベルグラード・フィルの演奏なんか、さすがに少々厳しかったですもんね。ほんわか繊細なる作品であって、濃厚個性大仰に表現しても仕方がないし、要はするに微妙な味わいを静謐に表現できるか、ということがキモなのでしょう。

 やや薄味だけれど、素っ気ないフルートではない(ジャン・ファン・ルース(fl))。空気は澄み切って、そよ風が吹き過ぎるように淡い「牧神」〜まずは、上々の出足です。遠目に音場が広がる、オフ・マイク気味な録音も悪くない。

 「夜想曲」も同様な、淡彩繊細なる静謐さに包まれた演奏です。寒々しく、薄暗いくも高い空を感じさせる「雲」、薄い弦と細かいニュアンスを誇る木管はあくまで気怠い。「祭」には躍動感が不足するが、それさえ奥床しい表現として理解できます。弱いが、響きは濁らない。それはおそらく金管の個性でしょう。シレーヌは、木管の配慮に守られた女声が、まさに「海の精」でしょう。夢見心地のデリカシー、素敵な演奏です。

 ・・・さて、著名なる「海」〜ワタシはこの作品を(相対的に)苦手としていて、リファレンスはブーレーズ/ニュー・フィルハーモニア管弦弦楽団(1966年)による、すべてが白日のもとに曝されたような、明快極まりない演奏となります。隅々にまで指揮者の配慮が行き渡った、精緻透明なるアンサンブルに間違いはない。古今東西の名演奏に比して、見劣りする完成度ではなく、控えめなる起伏を付けながら、粛々と音楽は進みます。「苦手」と書いたばかりだけれど、名曲としての手応え感触は存分に実感できました。

 前2作品より、こちらのほうが出来は良いんじゃないかな?ようやく全力での爆発が実感できて、それでもBRTフィルには威圧が感じられない(「海の夜明けから真昼まで」)。「波の戯れ」は、内向的な静謐さがいつもの個性(やや弱い、メリハリが足りない)であり、「風と海の対話」のキモは、トランペット〜コルネットのソロだと思うが、これが薄っぺらくて(この場合は誉め言葉)エエ感じです。充実して、かっちり芯のある朗々とした響きでは台無し。

 やっぱり、全体として少々”弱い”というか、一時の爆発はあっても、すぐに収束してしまうような、線の細い演奏かも知れません。そんな個性も作品との相性は悪くないと思います。録音は奥行きのある、雰囲気豊かなもの。

(2006年10月8日)


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written by wabisuke hayashi