ワルターは新旧盤を昔から聴いていたのに、世評高いこの録音を聴いたのは初めて。1951年録音のVOX盤はまったくみごとで、しかも「復活」との2枚組という大お徳用廉価盤。(お勧め)まずEMIでは避けて通れない音質問題では、驚くほど明快で、芯もあるし艶もあるので安心しました。(テンシュテット盤より良いのじゃないか)
一般に「歌もの」は苦手だけれど、この曲にはまったく抵抗がありません。歌い手の質も自分なりに理解できる。もちろん管弦楽には注文を付けたいところがたくさんあります。まず、クレンペラーの表現が、細部までおそるべきほど明晰であること。オーケストラの響きが明るいこと、重くないこと、クセとかへんに色気付いていなくて、クレンペラーの要求に完璧に従った緻密なアンサンブルに驚かされます。
テンポはVSOとの録音よりトータルで10分以上長くなっているが、表現が間延びしたり、緊張感が失われることはありません。あくまで細部を彫琢した結果、こういうテンポになったという説得力充分。ワタシはどの楽章も大好きな旋律ばかりながら、第3楽章「青春について」がいかにも東洋風な旋律でお気に入りなんです。ここのテンポがゆるりとしていて、一つひとつの音を確かめるように、悠々と楽しげだと思いませんか?
第5楽章「春に酔える者」は、バックのオーボエ(ドイツ語がようワカランが、ヤ、ヤ、と歌うところ)が明瞭に聞こえるかを注目します。(ジュリーニが好例)これほど明快に各パートを主張させている演奏は類を見ません。それにしてもヴンダーリヒの心のこもった声が気持ちの良いこと!ちょいとホロリとさせる青春の胸の痛みを感じさせる声。
ルートヴィヒの知的で広がりのある声質も文句ないでしょう。知情意バランスの取れた、完璧な歌唱。めまいを呼ぶような高揚。(とくに「告別」)また、フルートとの絡みもみごと。30分の長丁場をを一瞬と感じさせる入魂の熱唱。「大地の歌」には歴史的録音(しかも名演)が多いが、歌い手は個性が強すぎたり、やや時代を感じさせる場合もあって難しいんです。だからといって、さっぱりと整っただけの歌で満足できるわけもない。
これ、管弦楽と歌い手が完璧のバランスで「ベスト・ワン」の評価は、あながち否定できません。なんどでも聴けますよ。2〜3時間くらいすぐ経ってしまう。これから先がワタシの感想だけれど、オーケストラの響きがいかにも若くて熟成が足りません・・・が、この場合、その方が良かったんでしょうか。クレンペラーの主張を真面目に具現化していて、オーケストラのそのものの自主的な、深みと「伝統」(これはクセもの)ある響きではないが、爽やかなんです。そして、なんども言うが明快そのもの。マンドリン(?)がここまではっきり聞こえるのも初体験。
「大地の歌」は、ウィーン・フィルが良い!ニューヨーク・フィルも良い。終楽章のフルートの深み、ホルンの奥行き、弦の輝くような厚み、全体としての中低音の重心の低さ。それはフィルハーモニア管には不足しております。でも、この演奏を聴いて、それを致命的な弱点に数える人がいるでしょうか。なんと清潔で、気持ちよい演奏でしょう。そして、この曲特有の厭世観もまちがいなく漂う。これはクレンペラーとの相性でしょう。
嗚呼、こういうCDはレギュラー・プライスで買っても良いのかも知れないなぁ。ま、でもこんな立派で有名な録音はワタシのサイトの守備範囲じゃないし、他の多くの音楽ファンの方々に任せることにしましょう。久々この曲を、そして音楽を堪能した気持ち。