Chopin バラード/練習曲/幻想曲他(イディル・ビレット(p))


NAXOS 8.554527 Chopin

バラード第1番ト短調 作品23 /第2番ヘ長調 作品38 /第3番 変イ長調 作品47/第4番ヘ短調 作品52
子守歌 変ニ長調 作品57
3つの新しいエチュード 第1番ヘ短調/第2番 変イ長調/第3番 変ニ長調
幻想曲 ヘ短調 作品49/ギャロップ・マルキス 変イ長調/ラルゴ 変ホ長調 BI 109
葬送行進曲 ハ短調 作品72, No. 2/カンタービレ 変ロ長調

イディル・ビレット(p)

NAXOS 8.554527 1992年録音

 土耳古出身の女流 Idil Biret(1941-)もすっかりヴェテラン、

1980年代後半から2000年代にかけてNAXOSレーベルに移った際、使用楽器と録音機材の制限による品質の低い録音が多く出た
とあるのはほんま?本人の弁でしょうか。日本じゃあまり評判がよろしくない〜というか彼女の演奏に言及したコメントはほとんどネット上でも探せません。現在は自分のレーベルを主催して、自由に録音しているとのこと。

 子供時代の廉価盤LPの刷り込み、やがて1980年台にCD時代がやってきて当時は3,000円以上する超・贅沢品、廉価盤CDばかり求めてやがて21世紀、怒涛の国民皆廉価盤時代が到来、さらにはネットからデータで音楽を聴く時代へ・・・そのCD超・贅沢品時代に彗星のように出現したのがNAXOSでした。評価高い太古録音、知名度より、まず名曲をしっかり状態のよろしい音質で聴くこと、Chopinはルービンシュタインの駅売海賊盤に痺れたけれど当時は高価、正規音源廉価盤だったらこのビレット盤しかなかった・・・10年経たぬうちに”怒涛の国民皆廉価盤時代”が来ちゃったけどね。

 21世紀ネット時代も爛熟して自分も引退世代へ、さほどの経済的負担もなく著名な太古録音はもちろん、種々古今東西老若男女によるChopin演奏を聴ける身分となりました。昔(数枚分)お世話になったイディル・ビレットNAXOS全集はCD15枚分、著名なバラードや幻想曲のほか、ちょっと珍しい作品を収録したのが一枚目となります。

 著名なバラードよりスタート、第1番ト短調はものものしいラルゴの出足〜暗い第1主題から輝かしい第2主題への変貌対比が泣かせる名曲!テンポは揺れ動き、ドラマティック華やかな快速のパッセージが・・・少々粗い、響きがちょっぴり濁る。この辺り、ビレットの技巧云々される方がいらっしゃるのでしょう。劇的な第1番に比して第2番ヘ長調はシンプル、穏健な出足・・・そんな油断をしているといきなりの激情に走った第2主題が!これもやがて収まって平穏が戻ります。Schubertを連想しました。ゆったりとしたところではビレットの演奏は安心して聴けますよ。強音で”叩く”イメージがあるのは”使用楽器と録音機材の制限”のせいなのでしょうか。再び嵐が吹き荒れる場面ではやや”がちゃがちゃ”とした響きが気になります。

 基本さほど悪い音質とは思えぬのですが・・・。

 バラード第3番 変イ長調も軽快かつ落ち着いて明るい風情にて開始、静かなまま微妙に短調に変化して行ったり来たり、味わいある作品でしょう。激情に走らず少しずつ、華やかな世界がやってきます。表情やや硬く、もうちょっと流麗さは欲しいところ。第4番ヘ短調は名曲ですねぇ、ほの暗いワルツは哀愁に充ちて、少しずつ変容していくさまはまるで、昔語りの切ない思い出のよう。徐々に熱を帯びて、大音量に至る場面での響きの濁りが残念、快速パッセージの落ち着かなさは彼女の弱点でしょうか。浪漫派名曲中の名曲、鮮やかなテンポやら表情の変遷!とまで行き着かぬ、それでも作品の美しさはちゃんと理解できます。

 子守歌 変ニ長調 作品57も名曲やなぁ、シンプルなリズムの微妙な変奏はゆりかごをゆったり揺らせるよう・・・これは後で名づけられたのだそう。著名な24曲の練習曲とは別枠の3つの新しいエチュードは、胸騒ぎのような第1番ヘ短調、落ち着いた安寧にちょっぴり切なさ漂う第2番 変イ長調、第3番 変ニ長調は明るくシンプルに弾むリズムがなぜか寂しげ、静かなゆったりとした作品は安心して聴けますよ。

 「雪の降る街を」クリソツな幻想曲ヘ短調も有名、刻々と表情は変化して、まるで暗い葬送行進曲。やがてガラリと雰囲気は変わって流麗なパッセージが華やかに歌う・・・ところで細部の甘さ、流すところ有。残念。作品そのものが変幻自在な13分半の劇的ドラマ風、説得力ある全体構成を聴かせる手腕が問われます。大音響のところで響きが大味というか無機的にになるんやなぁ、それでも名曲は名曲。

 残りは意外と初耳っぽい小品(自分が知らんだけか)ギャロップ・マルキス 変イ長調(牧歌的にシンプル明るい風情)ラルゴ 変ホ長調(名残惜しく懐かしい)葬送行進曲(ピアノ・ソナタ第2番ほど深刻ではない哀しみ。こちら5分半ほど)カンタービレ 変ロ長調(これは夜想曲風)、どれも力みの必要ない小品ばかり、ビレットの表現に不足はないでしょう。

(2017年6月10日)

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written by wabisuke hayashi