Chabrier ピアノ曲全集(レナ・キリアコウ(p))


VOX  CDX5108 Chabrier

絵画風小品集(10曲)
風景/ゆううつ/つむじ風/木陰で /ムーア風舞曲/牧歌/村の踊り/即興曲/はなやかなメヌエット/スケルツォ=ヴァルス
ピアノのための5つのヴァリアント
オーバード /バラビル/奇想曲/アルバムの一葉 /田園風のロンド
気まぐれなブーレ
奇想曲
即興曲
ハバネラ
バレエの歌
ワルツ組曲
シパイの行進曲
3つのロマンティックなワルツ*
道化の行進*
ミュンヘンの思い出*

以上 レナ・キリアコウ(p)/ワルター・クリーン*(4手連弾)

VOX CDX5108  1965年録音 たしか2枚組1,500円で購入

 若い頃からの嗜好は深化していて、激しい、厳しい音楽を徐々に受け付けなくなってきております。もしかしてノーミソ硬直化して、新しい価値を受け付けなくなっているのかも。以下、十余年ほど前の文書にもあるが、昔馴染みの音源なんです。30年前かな?中古で25cmLPを聴いていたのは。久々の拝聴はまったりと懐かしく、安心して隅々までよく聴き馴染み、劣悪音質の代表選手だった(と記憶する)VOX録音も妙に味わい深い(ま、聴けぬ水準に非ず)。おそらく自分は後ろ向きのオールド・ファンになっていて、若い現役の音楽家たちを全然聴いていないかも、といった情けない事実であります。Chabrierって小粋、お洒落な作品旋律ばかり。独墺系とは明らかに語法が異なっていて、こちらが自分の刷り込みになっているのでしょう。Beeやんよりずっと肌にフィットいたします。

 レナ・キリアコウはほとんど知られないピアニスト(たしかギリシア出身)、VOXにはたくさん録音が残っているらしい。テクニックが抜群に切れるとか、リズムが端正とか、そんなタイプじゃなくて、もっと自由自在、所謂”味わい系”(ヘタウマか?死語っぽい)。「絵画風小品集」は粋で軽快な味わい+楽しげなリズムを誇る小品集、若い頃に痺れたのは超スローテンポにて纏綿と歌う「牧歌」〜ゆらゆらと曖昧なタッチ、旧い映画を見ているような、甘い雰囲気はあって、けだるいとの感触は変わりません。わずか5分ほどの短い作品(通常3分半ほど)、起承転結のない淡々とした流れこそ、ワタシのツボ。Ravel の「逝ける女王のためのパヴァーヌ」に影響を与えた、という説は余計なる蘊蓄ながら、こちらはもっと解脱しております。管弦楽編曲も素敵だけれど、ピアノのほうがずっと好き。

 最初の「風景」から鼻歌交じり、気紛れに弾き崩して(いるワケじゃなかろうが)まるでションソン、かっちり独墺系とは雰囲気まるで別世界。題名が遊び心いっぱいでしょ。「つむじ風」はまるでこどもが走る回るよう、時にやや濁るタッチは録音問題でしょう。「ゆううつ」も「木陰で」も、”凄く精密な描写!”ではなくて、”いや、ちょっと雰囲気だけ、ね”みたいな、そんな世界続きます。ラスト、「スケルツォ=ヴァルス」はノリノリ、賑々しい雰囲気に溢れました。これも管弦楽になってましたっけ。

 そのまま元気よく「ピアノのための5つのヴァリアント」へ突入、もっと華やかですね(「オーバード」そして「バラビル」)。「奇想曲」は題名に反してやや深刻であり、ある意味(ここまでご機嫌だったのに)急に気分が変わるのが題名由来か。「アルバムの一葉」って、彼(か)の有名な「枯葉」風浪漫的な旋律、ラストを締め括る「田園風のロンド」には笑顔戻りつつ、表情が曇ったり、深刻になったり、心象の揺れを感じさせました。

 「気まぐれなブーレ」は、先ほど ”ヘタウマ”なんて書いてごめんなさい。かなりのテクニックを要する、めまぐるしいも楽しげな旋律リズム、ニュアンスの変化。こんな”気まぐれな”作品ちゃんと聴かせるのも至難の業でしょ。(ここまで一枚目)

 大柄雄弁華麗な「奇想曲」、思いっきり跳ね飛んだリズムの「即興曲」、馴染みのリズム+旋律がゆったり、懐かしく揺れる「ハバネラ」(「牧歌」と並んで一番好きな作品)。剽軽な笑顔溢れて揺れる「バレエの歌」、どこがワルツやねん、的、勝手気ままな「ワルツ組曲」は歌詞を付ければそのままシャンソンでっせ。「シパイの行進曲」ってどんな意味合いですか?東インド会社のインド人軍隊を「シパイ」と呼ぶそうだし、F. Halevyに「シパイの王」という作品(歌劇?)もあるそう。いかつい(ジョーダンみたいな)深刻な行進曲〜途中軽快な歩みも出てくる、一風変わったテイストの作品でした。

 残り3曲はワルター・クリーンとの連弾でして、これも楽しいですよ、文句なく。「3つのロマンティックなワルツ」は響きに厚みが出て、ヴィヴィッドなスピード感はそのまま。「道化の行進」はユーモアにちょっぴり悲哀が覗く、といった風情でしょう。賑やかな作品なんだけど。「ミュンヘンの思い出」も賑やかなのに、なんとなく切ない気分漂う(「トリスタン」旋律がこっそり出現)・・・(蛇足だけれど、厳密には全曲収録じゃないそうです)

(2012年1月15日)

 狂詩曲「スペイン」・・・・名曲ですよね。ニケ/モンテカルロ・フィル(NAXOS)の録音は待望久しい名演奏。小粋で、にこやかで、幸せになる演奏。子供時分にはフィードラー、LP時代はデルヴォー/コロンヌ、そしてパレーの素敵な演奏で楽しんでいました。閑話休題。

 ニケのCDを聴いていたら、ピアノ曲からの編曲(もしくはその逆?)がでてきて、なかなか楽しい。そう、Chabrierはホントに楽しい。ピアノ曲はもっとお洒落で、いかにも「パリ」(田舎モンのワタシが想像するパリ。フランスは空港までしか行ったことなし)のイメージ。どの曲も自由で、肩肘張らずに、リラックスして聴ける曲ばかり。(全曲・・・というのは少々怪しい)

 このCD、かなり音質に難あり。それさえ、旧い映画を見ているような雰囲気があって、悪くない。キリアコウはギリシャの女流だけど、VOX以外では見たことはないし、最近はきっと、もう活動していないのでしょう。技術的に特別だったり、水の滴るような美音とも言い難いけど、甘い雰囲気はあって、けだるいのがたまらない。

 例えば「牧歌」という、わずか5分くらいの小曲を聴いてみて下さい。(管弦楽版も有)「わずか5分」というけど、ほかの演奏では、3分くらいしかかからない。キリアコウのは特別で、ゆったり、名残惜しそうに振り返りつつ、トロリと甘やかに、淡々とした旋律を味付けしちゃいます。じつはこの曲、演奏、LP(ファブリ名曲集25cmLP)時代から好きで、更にカセットにも録音して車で聴いていたくらいのお気に入り。

 「インプロヴィゼイション」というと、キース・ジャレットを思い出しますが、Chabrierのだって負けないくらい切ない旋律。真夏の濃密な闇の中で、線香花火がいっとき燃え上がったり、消えかけたりする気まぐれな幻影。
 「スケルツォ-ヴァルス」の、弾むような生命の喜び。4曲ほど管弦楽になっているけど、こっちの方が好きだなぁ。(以上「絵画的小品集」から)

 ほかの曲は「絵画的小品集」ほどの知名度はないけれど、どれも短くて、聴きやすい曲ばかり。「ハバネラ」の、波に揺られるような密やかなリズムを楽しんで下さい。きっと、誰もが知っている曲のはず。

 4手のためのピアノ曲集は名手クリーンとの協演で、音の状態は少々マシだし、いっそうウキウキとして楽しさ倍増。(4手って、一台のピアノを二人で弾くんですよね?)
 「眉間にシワ」とは無縁。「3つのロマンティックなワルツ」はシャンソンですよ。歌詞はないけど、歌が聞こえてくる。身体も自然と揺れます。

 このCD、じつはこのラスト3曲は「フランス4手のピアノ音楽」(VOXBOX CDX5078・・・・・これも楽しさいっぱい)とダブッていて、買うとき少々悩んだ記憶もあります。でも、買っておいて良かった。最近、NAXOSが系統的にChabrierを出しているようですが、演奏はいかがでしょうか。メジャーではほとんど見かけない曲です。


【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi