Bruckner 交響曲第5番 変ロ長調
(フォルクマール・アンドレーエ/ウィーン交響楽団
1935年ハース版/1953年録音)


Music and Arts CD-1227 Bruckner

交響曲第5番 変ロ長調(1935年ハース版)

フォルクマール・アンドレーエ/ウィーン交響楽団(1953年録音)

Music and Arts CD-1227

 前回趣旨と同じ、いつもの戯れ言更新であります。  

先日、ネットで「こんな人の全集が存在するのだね」と驚いていたけれど、NMLで聴けるとは・・・68:16だからテンポ速め。史上初の全集とのこと、ネットで情報を拾うと必ずしも賞賛ばかりではありません。短期間に一気に仕上げたセッション録音ということもあるのか、オーケストラの仕上げは少々ラフな印象ないでもない。しかし、これは希有な推進力とヴィヴィッドな躍動があって、かなり爽快な、モダーンなセンスの演奏であります。なんせ1878年巨匠世代の生まれ、異形なる後期浪漫の残滓に充ちているのか?と思ったら大間違い。全集の版の選び方も現代のセンス(改訂版の排除)であって、音質は時代相応だけれど、けっこうラスト迄愉しく聴けました。購入するには少々お高いな、なんせパーテルノストロ全集の9倍くらいですから
・・・とは「音楽日誌」よりの引用だけれど、ほんま便利になったというか、有り難みがなくなったように感じる今日この頃。

 この全集は年代を考慮すればかなり良心的な音質だけれど、やはりBrucknerは鮮明な録音で聴いたほうがよろしいに決まっております。しかも、この時期のウィーン交響楽団の実態なのか?それとも一気呵成(わずか3週間)に仕上げたプロジェクト故か、アンサンブルもざっくりとして、そう精緻な完成度ではない。オーケストラもあまり上手くはない。でもね、時代の証言として知名度的ともかく、スイス往年の名匠の遺産を手軽に確認できることを、深く感謝して拝聴いたしましょう。やはり良い時代になったと考えるべきなのでしょう。

 フォルクマール・アンドレーエは1879年生まれだから、フルトヴェングラー、クナッパーツブッシュより年上なんです。所謂、”19世紀残党の巨匠世代”也。でもね、改訂版を使用していないし、なによりテンポ設定が快速(68:16)、表現もモダーンでストレート、異形なるテンポの揺れやら、ものものしいスケールを強調する方向とは違います。世評はあまり高くないようだけれど、ワタシはテンション高く、勢いのある熱血演奏をすっかり気に入りました。

 全集中、屈指の規模と壮麗な昂揚を誇る第5番 変ロ長調。運命の暗い階段を一歩一歩下っていくと、いきなり眼前に聳え立つ神秘かつ巨大なる障壁が!的開始の第1楽章であります。全体に金管の高らかな響きにやや品がない(ずばり上手くない)というか、深みに欠けます。濃霧が立ちこめたような、深遠なる味わいではない。もっと明快でさっくりとしたストレート系、でもけっこうアツい表現であります。アンサンブルも縦線がきっちりと揃ったものでもないが、そんなことは音楽の神髄ではないでしょう。

 第2楽章「アダージョ」も冒頭、オーボエ・ソロはさほどに魅力的に響かない。弦の詠嘆も艶々の輝きではないけれど、ざわざわとした躍動と朗々としたエネルギーを感じさせます。Brucknerのキモである第3楽章「スケルツォ」に入りました。急き立てるような激しいリズムと、レントラーが交錯する(しつこい)楽章。ここでのざらりと粗削りの味わい+エネルギーの爆発に文句はありません。

 終楽章。序奏で第1楽章「運命の階段」+主題が回帰し、第2楽章のオーボエも、第3楽章のレントラー(リズムは変更され)再登場いたします。やがてチェロとコントラバスで第1主題が開始され、それが巨大なるフーガに育成されるんだけれど、弦に洗練と集中力はやや足りない。が、推進力と熱気は充分なんです。放送録音だと思うんだけれど、短い期間で一気全曲演奏でしょ、細部の仕上げともかく、アツい意欲みたいなものはたっぷりあって、途中快速で大爆発、テンションは維持され、もたれない。コラールの決然たる宣言〜やがて全曲をアツく締め括りました。

 洗練と入念なる仕上げに不足するが、時代の証言としてこのような記録が残されたことに、感謝。

(2010年1月15日)

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