Brahms 交響曲第1番ハ短調
(カルロ・マリア・ジュリーニ/ロサンゼルス・フィル)


DG POCG-1218 Brahms

交響曲第1番ハ短調

カルロ・マリア・ジュリーニ/ロサンゼルス・フィル

DG POCG-1218 1981年録音

 ロサンゼルス・フィルの音楽監督を務めたのが1978-1984年、Carlo Maria Giulini(1914ー2005)60歳代最後の頃、これ以降の録音は個人的にはやや弛緩を感じさせて好みではありません。ズビン・メータの黄金時代(1962-1977)、当時の記録は今聴いても新鮮な意欲溢れるもの、但し、独墺系オーソドックスな作品録音が少なかったと記憶します。(現在に至るまで彼のBeethoven交響曲全集録音はないんじゃないの?)このオーケストラもレパートリーの充実や、オーケストラの技量の幅を広げるべく個性のまったく異なるジュリーニを招聘したのでしょう。たしか1990年頃出張中伊太利亜・ミラノのリコルディ前辺り、ジュリーニとすれ違ったのも思い出、爾来彼はお気に入り。

 ティンパニの貫禄ある歩みに低音楽器が絡む第1楽章「Un poco sostenuto - Allegro」はカッコ良い始まり。19:00という時間はもちろん提示部繰り返し有、噛みしめるような遅いテンポ設定が決まっております。米西海岸のオーケストラはメータ時代と同様、瑞々しいウェット、明るい響きのまま落ち着きを加えておりました。例えば木管に独墺系一流の深みなどは期待できなくても、金管の響きは控えめ、細部ニュアンスをしっかり加えたていねいな仕上げは、曖昧さのない決然としたジュリーニの魅力全開でしょう。所謂古楽器系とは無縁、無用にテンポを動かさず、堂々たる落ち着いた味わいであります。

 第2楽章「Andante sostenuto」は10:33。前半2楽章だけで既に30分に迫るもの。魅惑の緩徐楽章は、弦の開始がさわさわと静謐な始まり。弦に絡む木管もたっぷりデリケートな歌に溢れます。この辺りがジュリーニの薫陶なのでしょう。纏綿と呼吸深く詠嘆は続いて、それはけっして急がず要らぬ煽りなど伴わぬ落ち着いたもの。これほど名残惜しく黄昏て、美しい演奏を聴いたことはない。後半、美しいヴァイオリン・ソロの後方、ホルンの明るい響きは亜米利加していても違和感はありません。

 第3楽章「Un poco allegretto e grazioso」は間奏曲風、スケルツォではないのですね。安寧な木管と金管が淡々と滑り出して、バランス感覚は素晴らしいもの。ちょっぴりテンポと熱を加えても優雅な風情は崩れません。中間部のせり上がっていくような楽想にも慌てた様子のないもの。5:09。

 終楽章「Adagio - Piu andante - Allegro non troppo, ma con brio - Piu allegro」は第1楽章同様、ものものしい深刻な出足。この人は耳目を驚かせるような極端な表現をしない人、それでも決然とした強弱、ティンパニの楔は必要にして充分な効果でしょう。やがて控えめに遠くホルン(先に書いたとおり、これは亜米利加の音やなぁ)に呼び込まれて第2部「歓喜の歌」へ。

 弦から木管に引き継がれる馴染みの旋律、淡々粛々として慌てず、徒にテンポを上げず、徐々に熱を帯びる見事さ、自然な流れ。「やたらと頑固頑迷、巨魁に立派なBrahmsはもう御免」なんて、安易にここ最近思っていたことを反省、この堂々たる噛みしめるようなスケールは間違いなくカッコ良い!力強いけれど、力みはないんです。落ち着いて煽らぬ表現継続、順々と説得されるような魅惑の充実サウンド・・・かつてのお気に入りは快速シャルル・ミュンシュ/ボストン交響楽団(1956年/駅売海賊盤ですんまへん!45分それとは間逆な完成度であります。

 決然としたティンパニの楔は最終盤に再び登場、ラスト、コラール風主題のファンファーレも見事に決まって圧巻の感動をいただきました。18:35。

(2018年7月14日)

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written by wabisuke hayashi