Brahms 交響曲第2番ニ長調/悲劇的序曲
(クリスチャン・マンデール/”ジョルジュ・エネスコ”・ブカレスト・フィルハーモニー)


Arte Nova AN034510 Brahms

交響曲第2番ニ長調
悲劇的序曲

クリスチャン・マンデール/”ジョルジュ・エネスコ”・ブカレスト・フィルハーモニー

Arte Nova AN034510 1995年録音

 クリスチャン・マンデール(1946−)は現代ルーマニアを代表する指揮者とのこと。イギリスでも活躍して、来日もしているそうですね。【♪ KechiKechi Classics ♪】にも数回言及がありました。(Brahms Enescu)未だ真面目に廉価盤を集めていた10年ほど前のこと、やがて似非金満後期中年に至って〜というより21世紀ALL廉価盤時代を迎えて+挙句データ拝聴の時代でしょ?ここ最近、著名な演奏ばかり聴いて「Brahms の交響曲はギュンター・ヴァント!」(1982-85)とか、そんな(オモロないフツウな)贅沢者になっちまいました。

 もう10年スパンでの再聴、華麗なる加齢は耳鳴りを加速させたけど、こんな演奏だったとは・・・ちょいと驚き。よく歌い、適正なテンポ、絶妙な間、ブカレスト・フィルは艷やか華やかな色気サウンドじゃないけど、意外なほど整ったアンサンブル、技量の弱さを感じさせぬ隠れた実力派でした。Beethoven _Brahms 浪漫派一般に交響曲苦手な時期が続いたけれど、ここ最近精神的に枯れてきて素直に名曲を愉しめるようになっておりました。交響曲第2番ニ長調は他3曲に比べて、伸びやかに明るい風情が素敵、第1番は強面に立派であり、第4番は悲劇的に深刻〜ちょいと拝聴に根性要りますから。

 第1楽章 「Allegro non troppo」。Brahms ってほとんどシンプルな短い動機を自在に発展させ、起伏豊かな大きな世界を作り出す手法が天才的。冒頭D−C♯−Dの(なんの変哲もない)低弦動機が楽章を支配して+ホルンの牧歌的な主題が変幻自在に、劇的な楽章に育っていく・・・明るいけど陰影に充ちて劇的、マンデールは朗々と歌い、落ち着いた間、スケール大きな世界を作り出しております。適度なタメ、テンポは中庸を基本に大仰に揺れず、走らず、チェロとホルンが印象的な黄昏の楽章であります。

 第2楽章 「Adagio non troppo - L'istesso tempo,ma grazioso」。なんとも安寧に落ち着いたチェロの第1主題がBrahms 節、例の如し天空駆けるホルンが印象的に絡みます。基本明るい旋律が続いて、懐かしい、そしてなんとも陰のある劇性が感じられる静かな名曲!勝手な先入観だけれど、Brahms ってちょっと哀しい、人生の疲れも滲む中年男性の後ろ姿ですよね。若いころの失敗を悔やんで激昂しても、それは内的な叫びにとどまって、静謐な語りに戻る・・・マンデールは語り口の上手い、落ち着いて味わい深い、この楽章が一番の出来じゃないか。

 第3楽章 「Allegretto grazioso (Quasi andantino) - Presto ma non assai - Tempo I」。スケルツォ楽章なんだけど、いっそう気軽な間奏曲風。例の如しシンプルな主題(オーボエ)が弦によって半分に縮められたり、オーケストラ全体に溌剌と展開されたり、Brahms の技巧面目躍如なところ。ここも基本、安寧な落ち着きが支配して、陰影豊かなしっとりとした風情に溢れました。マンデールの仕上げはさりげなく、力みもなし。終楽章「Allegro con spirito」は快活な喜び、華やかに爆発して、交響曲としての大団円を締めくくりました。テンポはかなり揺れ、時に入念な味付け、表現は雄弁、あざとさ不自然さはないんです。ラストの疾走に慌ただしさを感じさせない。

 かつての記憶では”鳴らないオーケストラ”、今回拝聴にそんな不満を感じませんでした。各パートに突出した個性や色はないけれど、質実地味な響きはBrahms に相応しいもの、アンサンブルとしての調和に文句なし。Brahms のいくつかの管弦楽作品は、いつもCDの埋草的扱いに聴き流しておりました。「悲劇的序曲」は交響曲第2番の感激とテンションそのまま、作品の個性対比も愉しく拝聴できました。中間部の静かなところが美しい。

(2015年8月22日)

【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi