Beethoven ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品61(クレーメル)


Beethoven

ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品61

クレーメル(v)/アーノンクール/ベルリン放送交響楽団

1987年10月25日 ベルリン・フィルハーモニー・ホール・ライヴ〜FM放送→カセットにエア・チェック→MDへ

 世の中には多種多様な音楽があって、人生を幸せにしてくれます。「クラシック音楽の名曲」と呼ばれる、歴史の荒波を乗り越えてきたなかにも好きずきはあって然るべし。ワタシはBeethoven の作品一般を「名曲」と認めるのになんの躊躇もないが、あまり好きとは言えない」といったところでしょうか。

 「エリーゼのために」「スプリング・ソナタ」、そして、このヴァイオリン協奏曲+2曲のロマンスは、文句なしにワタシの心の琴線に触れます。先日、ビーチャムの歴史的録音10枚組(History 205224〜28ー303) 中のMozart ヴァイオリン協奏曲第4番が、じつは収録間違いでBeethoven であった、という発見有。サイト上の論議で「ワルター/シゲティの1946年録音ではないか」との結論となりました。ま、たんなるチョンボCDだけれど、それでも素晴らしき歌心に充ちて胸を打つばかり。

 さて、たしか3回録音している(ネルソン盤、マリナー盤、アーノンクール盤)が、アーノンクールとの録音(1992年)は、このようなライヴの積み重ねのうえに成立していることを教えてくれます。マリナー盤のカデンツァ(シュニットケ作)にも驚いたけれど、ここでもファゴットとか、ティンパニとか、フル・オーケストラを伴う新機軸が新鮮です。但し〜

 その辺ばかりを話題にするのもねぇ?ワタシ、このヴァイオリンは現代最高の美しさを誇っていると思います。ハイフェッツの「嗚呼、音楽だけが鳴っている」風超快速滑走演奏、「極限穏和穏健豊満」のオイストラフ、どれも素晴らしい。文句なし。でも、クレーメルこそこの曲の原点であり、古典であり、かつもっとも新しい魅力に溢れていると確信できます。

 旋律の歌い口がそっけない、ヴィヴラートが少ないソロ。冷たい?とんでもない。クールなんです。密かな微笑みさえあります。夾雑物がなくて、この名曲の一番美しいところを表出させているだけです。ヴィヴラート問題だって、古楽器初期の愛想もなにもあったもんじゃない・風演奏とは天と地ほど違うんです。ちゃんと色気があるんですよ。

 知性と官能・美貌が完璧バランス・菊川怜風ヴァイオリンでしょうか。クールに間違いはないが、ハイフェッツのような「人間を感じさせない」演奏ではない。聴き手をゾクゾクさせるような「歌」(コブシのような節回しは皆無)を感じさせて、これが現役のエンターティメントとしての最大のサービスなんです。

 テンポとしては全42分だからフツウかな。そう、耳目を驚かすようなテンポの大幅な変化とか、耳慣れぬダイナミクスとか(ここ最近、そんなのばかり喜ぶ人が多くて困りもの)そんなものありません。過激派で鳴らしたアーノンクールでさえ、バランスの取れたバックはエキセントリックなものではない。(これ、旧西のベルリン放響です〜現・ベルリン・ドイツ響)もの凄く細部まで配慮の行き届いた、カユイところに手が届くようなバックなんです。

 これぞ新時代のオーソドックス・標準。ワタシはCDのアーノンクール盤を聴いていないが、いかがなもんでしょうか。(2002年3月28日)

 


 

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written by wabisuke hayashi