Beethoven ピアノ協奏曲第1番ニ長調/第3番ハ短調
(ジョン・リル(p)/ワルター・ウェラー/バーミンガム市交響楽団)


Chandos CHAN9084 Beethoven

ピアノ協奏曲第1番ハ長調
ピアノ協奏曲第3番ハ短調
バガテル ハ短調WoO52/ハ長調WoO56

ジョン・リル(p)/ワルター・ウェラー/バーミンガム市交響楽団

Chandos CHAN9084/CD1 1992年録音

 一時苦しんだ”Beeやん苦手病”もすっかり癒えて、なんでも来い!状態へ。それでも自らのサイトを読み返してみると(他の方の音楽系ブログと比較して)Beethovenの出現は少ないもの。聴けばほとんど、その厳格な構成+多彩な旋律リズムに心奪われるんですけどね、彼の音源を取り出すのはちょっぴり敷居が高い感じ。久々に昔馴染みの作品をしっかり聴きましょう。John Lill(1944ー英国)は未だ現役、Walter Weller(1939ー2015)は往年のウィーン・フィル名コンマスでした。オーケストラはサイモン・ラトル時代(1980-1998在任)。ジョン・リルには旧録音が存在して(アレクサンダー・ギブソン)こちらは廃盤入手困難みたいです。もったいない。

 ”それを云っちゃお仕舞いよ”的感慨だけど、若さ躍動する第1番ハ長調協奏曲、はっきりBeethovenの厳しいリズムを刻印する第3番ハ短調協奏曲、歴代古今東西老若男女名盤犇(ひし)めいて、それなりの音質だったらどれでも感動間違いなしの名曲中の名曲、極東亜細亜のド・シロウト(=ワシ)にはそれで充分なんじゃないか。それでも、美しく洗練されたピアノの音色、息の合ったオーケストラを聴いていると心浮き立つものがありました。音質も演奏も極上バランス、時に残響過剰なChandos録音、ここでは適度に瑞々しい空間が広がります。録音年にはちょっと情報に自信がなくて、1992年は初発売と同じ。

 ピアノ協奏曲がかつて”苦手系作品の極北”だったのは、その厳しい威圧感によるもの。第1番ハ長調は例外的に拝聴機会が多くて、それは溌剌として明るく、若々しい躍動でしょう。初演は1795年25歳、伴奏指揮はアントニオ・サリエリ!第1楽章「Allegro con brio」静かな弦の出足が美しくデリケート、速攻で力強く明快なリズムを刻んで、既に彼の個性が刻印しております。愉悦に充ちたピアノはMozartを連想させる軽快なもの、力強い伴奏との対比も鮮やかだけど(そこがMozartとの違い)当時はもっと素朴なオーケストラだったのでしょう。ジョン・リルのピアノはスムース夢見るように洗練されて瑞々しい。流れは自然であり、力みを感じさせぬ流麗なもの。カデンツァは思いっきり華やか、誰の作ですか?(16:01)

 第2楽章「Largo」。深く沈溺する安寧な緩徐楽章。このしっとりとした味わいはモダーン楽器ならではのものでしょう。若きBeethovenのメロディ・メーカーとしての面目躍如、陰影豊かな管弦楽に漂うピアノ・ソロは既に浪漫時代を感じさせるもの。(12:16)第3楽章「Rondo Allegro」冒頭ピアノ・ソロの賑々しいリズムから一気呵成にオーケストラが参入して、この力強さはBeeやんの個性がしっかり刻印されております。明るく、希望に充ちた風情は若さでしょう。ピアニストは”叩き”たくなるところ、ヴェテランの抑制とバランスは硬質に非ず、むしろ軽快でしょう。途中暗転して追われるように忙しないリズムも効果的。オーケストラに華やかさはないけれど(木管の音色など)整ったアンサンブルはソロと息が合って親密、Wikiによるとラスト”ティンパニの連打は史上最初の打楽器ソロの難解なパッセージ”なんだそう。そう云われぬと気付かないけど。(8:38)

 第3番ハ短調は最初っから最後迄、成熟したBeethovenの個性躍動。第1楽章「Allegro con brio」鬱蒼とした主題提示はMozartのハ短調協奏曲K.491冒頭とクリソツでっせ。やがてオーケストラが雄弁に展開して、初期作品とは大きく異なるところ。深刻かつ華やかなピアノの表情は力強く、決然と切迫していかにも”Beeやん”らしい。ここでもジョン・リルはデリケートな抑制が効果的、美しい演奏でしょう。カデンツァは思いっきり華麗、スケール大きくピアニストの腕の見せどころ。(16:21)第2楽章「Largo」。これは深く沈溺して内省的な、美しい旋律。ピアノ・ソロから粛々とオーケストラに引き継がれる優雅な旋律は、この作品屈指の美しい場面でしょう。バーミンガム市交響楽団は素直な音色、ソロを引き立てて文句ありません。ソロの分散和音に、木管が静かに絡むところ、絶品!(10:24)

 第3楽章「Molto allegro」。ハ短調のロンド主題が決然と、風雲急を告げるところ。これがBeeやんなぁ、それはオーケストラに引き継がれて幾度繰り返されて、効果絶大!表情は時に上機嫌に変遷して、この辺りムツかしそうなパッセージはピアニストの技量が問われるところ。この頑迷ー柔和の対比が上手いんやなぁ、名曲の名曲たるところか。ジョン・リルは最初っから最後まで力みとか”叩き”とは無縁、流麗な自然なバランスを崩さない、聴手は快く名曲を堪能できました。

 バガテルはほんの短い3:50、2:08の息抜き、Bachが木霊しました。

(2019年1月14日)

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written by wabisuke hayashi