Barber ヴァイオリン協奏曲/
Bernstein ヴァイオリン、弦楽、ハープと打楽器のためのセレナード
(フー・クン(v)/ウィリアム・ボートン/
イギリス・ストリング・オーケストラ)


NIMBUS  NI5329 Barber

ヴァイオリン協奏曲 作品14

Bernstein

ヴァイオリン、弦楽、ハープと打楽器のためのセレナード

フー・クン(v)/ウィリアム・ボートン/イギリス・ストリング・オーケストラ

NIMBUS NI5329  1991年録音

 19年ぶり久々の再聴。(自分の以前のコメントを見るのはかなりツラい、というのは同様)胡坤(1963-中国→?)はすっかりヴェテランの年齢、現在倫敦在住、その後、指揮にも手を染めているようです。録音では他の演奏を伺ったことはありません。William Boughton(1948ー英国)も日本では知名度さっぱり、忘れられたちょっと珍しい音源かも知れません。初めて聴いた記憶はちょっと元気ない演奏かも、そんなことを感じた記憶だったけれど、音質演奏とも立派な完成度と認識を新たにしたものです。

 Samuel Barber(1910-1981亜米利加)は意外と最近迄ご存命だったのに、その作風は保守的、キャッチフレーズは「遅れてきたロマンティスト」。破壊的に鋭角、ヒステリックな魅力を湛えるStravinskyのヴァイオリン協奏曲は1930年、こちらは1939年の作品、古典的な二管編成の伴奏に調性は表記されていないけれど第1楽章は「Allegro」はト長調、いきなりのとろりと甘い叙情的な旋律が泣かせるもの。それは纏綿と歌って懐かしさに盛り上がって、ヴァイオリンの音色も甘く、伴奏も雰囲気たっぷりでした。(10:39)第2楽章「Andante」はホ長調(嬰ハ短調)は遠く静かなオーボエに始まって、これがなんとも寂しげに、哀しげに静謐。静かに弦や木管、ホルンが絡み合って長い二分半の序奏から始まりました。ソロは先端の旋律を控えめに嘆きます。このあたりラプソディックな詠嘆、ソロの押出しは控えめに過ぎて線が細いかも。Rachmaninov辺り、ハリウッドの雰囲気の作風だけど、甘さやや控えめ、薄味のステキな、ちょっぴり不安な旋律が続きました。(8:40)

 第3楽章「Presto in moto perpetuo」は無調の無窮動。ヴァイオリニストは超絶技巧を要求されるところ。ここも音録りの思想?ソロはちょっぴり控えめ、テクニックの切れ味前面の風情ではありません。この辺りが昔の”元気ない”印象につながったのかも。もっとバリバリ弾いて爆発が欲しい!ボートンの伴奏は立派だと思います。(4:12)

 Bernsteinはカッコ良い作品、初演は1954年アイザック・スターン。第1楽章「Phaedrus - Pausanias: Lento - Allegro」は出足Bartokに似て、緊張感漂うヴァイオリン・ソロが静かに情感を高めて、やがて例の確信に充ちたヴィヴィッドな歩みとリズムに至ります。打楽器が効果的に決まっております。かなりノリノリの演奏。(6:39)第2楽章「Aristophanes: Allegretto」は不安げに落ち着かぬソロと管弦楽の剽軽な掛け合い。ここの破天荒なソロ旋律には、もっとアクの強い押出しを求めたいところ。(4:16)

 第3楽章「Eryximachus: Presto」ここは圧巻のスケルツォ(?)息もつかせぬ快速パッセージがジャズのリズムにノリノリ。(1:32)第4楽章「Agathon: Adagio」は緩徐楽章か。ここもBartokに似てソロはたっぷり歌って、情熱的に盛り上がるところ。やはりヴァイオリンは清楚に過ぎて、線が細く弱いと感じます。もっと瞑想と入れ込みを!(7:19)第5楽章「Socrates - Alcibiades: Molto tenuto - Allegro molto vivace」まるで最後の審判のように深刻な鐘。オーケストラの重厚な嘆きが続くところ。粘着質に不安げなヴァイオリン・ソロの旋律にチェロが絡みます。やがて風雲急を告げる場面転換にリズムは激しく、打楽器も盛大、バーンスタインらしい変拍子も出現してジャズ風でもあります。ラスト熱狂的なパッセージに締めくくって、これはノリノリの名曲。(10:38)

(2023年9月16日)

 恥多き人生、というか、自分の以前のコメントを見るのはかなりツラいものです。コメントというより、音楽の聴き方、感じ方そのものが現在とは違っていて、驚くばかり。「ヴァイオリンはかなり常識的で線も細くて、クセというか個性がなさすぎてツマらない」〜ツマらないのはオマエの耳とコメントだろう?と突っ込みも入れたくなります。言い過ぎでっせ。

 録音当時、フー・クン28歳。たいしたもんですよ。正攻法で、やや地味だけれど抑制系のヴァイオリンが美しい。いえいえ。数年前の自分の希望↓も理解はできるんです。甘いあま〜い旋律充満でしょ?もっとトロリと甘く、切なく、艶やかに、クサく!といういうのが、いかにも似合いそうな、そんな作品ではあります。たしかに。

 ボートンの責任もあるんでしょう。ワタシはこの指揮者は、叙情的表現が勝っていてお気に入りだけれど、リズム感が少々甘い。時に全奏で響きが濁ることも有。ようはするに、ソロ・オーケストラとも、しみじみ真っ直ぐ表現していただいて、Barber作品の魅力は存分に伝わるが、まだまだ余裕が足りないと言うか、遊びとか爆発は欲しいところ。録音良好。

 ま、真面目一本槍だけど、勘弁してあげてね、若手だし、的演奏なんです。だから「セレナード」という選曲は少々マズい〜指揮者の個性共々。だって叙情的表現系でしょ?イギリス紳士だし。やっぱり、ジャジィにバリバリ元気より、のりのりで演ってもらわなくっちゃ。一番下にバーンスタイン/フランチェスカッティの演奏と比べちゃってさ、あまりにもかわいそうだけれど、はっきり言って、そちらを聴いて初めて「ああ、この作品ってこんなテイスト!」と気付いたくらいでしたね。

 ・・・で、結論的に数年前となんら評価変わらず。相変わらずワタシって傲慢やなぁ。Googleで「HU KUN」と検索してみたけれど、頑張っておるようです。でも、CDはこれの他には室内楽をみかけたくらいかな?その後の成長を見届けたいもの。

(2004年2月20日)

 円高のときは個人輸入が楽しかったなぁ。1$=90円くらいでしたからね。このCDもずいぶん安く手に入れました。いまだったらこんな贅沢は出来ない。

 バーバーは「弦楽のためのアダージョ」以外の作品は、ほとんど知られていません。しかし、この曲は涙もののセンチメンタルでトロリと甘い旋律の名曲なんです。1941年の作品にしてはずいぶん保守的で、ヴァイオリン版ラフマニノフといった趣。たしかアン・アキコ・マイヤーズのデビュー曲でしたね。中国出身の若いフー・クンというヴァイオリニストが気持ちよさそうに弾いています。(メニューインの弟子だとか?)

 ボートンのオーケストラは日本語訳はどうしたらいいんでしょ?(「英国弦楽管弦楽団」?〜ヘンだなぁ)日本ではほとんど話題にならないけど、たしかマンチェスターの団体でNIMBUSからたくさん録音が出ています。しっとりとした音楽をやらせるといい味出します。(元気の良い、リズム感のある曲はちょっと緩い)

 ヴァイオリンはかなり常識的で線も細くて、クセというか個性がなさすぎてツマらない。曲が曲だけに、思いっきりクサく、朗々と旋律を歌わせてほしかったところ。わずか4分弱のフィナーレでは、細かい音形を表現する技術は充分だけど、盛り上がりが足りません。なんというか、もっと入れ込んで陶酔して欲しい。

 バーンスタインの「セレナード」は、フランチェスカッティ、クレーメルなんかが録音してました。彼らしい快活なリズムと、荒唐無稽な旋律の跳躍が素敵な現代作品。

 オーケストラもヴァイオリンもかなり熱演ですが、ボートンはやはりこういう曲では大人しすぎるというか、真面目すぎる。なんせ紳士の国ですからね。クンはバーバーの時と同じで、独自の主張が足りない。細い。おとなしい。変化が少なくてどこも一本調子。技術が弱いわけではないが、スウィング感が足りない。リズムが曖昧。

 でも、珍しくていい選曲・演奏家でしょう。録音もニンバスらしい、しっとりとした暖かい音。このCDは国内では出なかったはずで、曲自体も意外と手に入らないので貴重といえば貴重なんです。


比較対象盤

Bernstein
ヴァイオリン、弦楽、ハープと打楽器のためのセレナード〜フランチェスカッティ(v)/バーンスタイン/ニューヨーク・フィル
(SONY SM3K 47 162 1965年録音)

 当たり前の話しながら、共感度というかテンションというか、熱気の水準が違う。バーンスタインの、汗が飛び散る様子が眼前に浮かぶよう。オン・マイクであまり録音もよろしくないが、迫力が桁違い。

(1999年更新)

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written by wabisuke hayashi