Bach ヴァイオリン・ソナタ 第4番ハ短調BWV1017/第5番ヘ短調BWV1018/第6番ト長調BWV1019
(イーゴリ・オイストラフ(v)/ナタリア・ゼルツァロヴァ(cem))


YedangClassics YCC-0107 Bach

ヴァイオリン・ソナタ
第4番ハ短調BWV1017/第5番ヘ短調BWV1018/第6番ト長調BWV1019

イーゴリ・オイストラフ(v)/ナタリア・ゼルツァロヴァ(cem)

YedangClassics YCC-0107 1987年録音

 旧ソヴィエットの膨大なる放送録音を所有する米PIPELINE音源は、現在主にBRILLIANTにて拝聴可能。種々様々なるレーベルで発売されており、けっこう人気だったんじゃないでしょうか。21世紀になりたての頃、韓国YEANGCLASSICSが意欲的にCD化し、ラストまとめてボックスものを激安発売(処分?)して撤退いたしました。けっこう買い集めましたよ、当時。内容は玉石混淆(とくに音質問題)でして、4/5はオークションにて処分済み。ハードなプラケース+厚紙カバーで見た目は立派なんです。(盤質も良好)但し、収録作品、音源選定組み合わせかなりエエ加減、厳選して(というか、処分できずに)残したのは40枚。

 イーゴリ・オイストラフ(1931年-)は偉大なるダヴィッド(1908-1974)の息子、かつて父子の競演は話題になったものだけれど、既に引退の年齢でしょう。この一枚は音質演奏とも優れたものだけれど、旧態とした浪漫スタイル(良し悪しじゃなくて)、作品的に中途半端収録(全曲に非ず)のためオークションに出品(300円)、幾度再出品繰り返しても買い手は付かない、といった不人気さに呆れました。親父ほど人気ないんだよなぁ、実力派なんだけど。

 【♪ KechiKechi Classics ♪】 でもけっこう掲載ありますよ。

親父の威光に隠れがちの名匠だけれど、豊満で瑞々しい音色はダヴィッドより少々憂いを感じさせます。旧態として、しっとり美しく歌う演奏であり、こんなスタイルに馴染んでいるせいか第4番ハ短調「シチリアーノ」哀愁の旋律(「マタイ」の「主よ、哀れみ給え」にクリソツ)に説得力を感じました。ダヴィッド・オイストラフ/ハンス・ピシュナーの演奏(LP時代)を連想いたしました。

 敬愛する大Bach の作品だけれど、ここ最近技巧優秀スマートなる古楽器演奏ばかり聴いていて、現代楽器、それも少々古風旧態とした演奏は久々、というか、メタボ警告!ダイエット礼賛!時代に(あえて)メガマック!みたいな豊満たっぷりジューシーなサウンドは(ある意味)逆に新鮮!快感!音質もYedangClassicsとしては、ややオンマイク、粒子が粗いがワリと良好でした。

とは「音楽日誌」からの引用だけれど、なるほどなぁ。ほとんどこれに言い尽くされて、こんなウェットなスタイル、けっこう好きな人はいるんじゃないか。他人事みたいにコメントしたが、古楽器派のワタシも大好き。聴いていてちょっぴり震えるほど。

 第4番ハ短調始まりました(例の絶品・涙のシチリアーノから)。まったりウェット・サウンド前提に、親父より音色がクールなのだな。ナタリア・ゼルツァロヴァってイーゴリとはMozart で競演(ピアノ)しており、ここでは当然現代的メカニカル・チェンバロ。1987年ってかなり古楽器受容が進んだ時期なのに、露西亜ではこんな楽器が主流だったのか。水も漏らさぬ緊迫したサポートぶりであります。リズムが緩いわけじゃなく、スタイルが浪漫なだけなんです。朗々と大Bach の美しい旋律を、たっぷり美しく表現して余りある優雅なる世界。

 第5番ヘ短調は途方に暮れたようなチェンバロが静かに、ゆったり開始すると、息も絶え絶えにヴァイオリンが後を追いかけました。憂鬱満載、まさに濃厚なる浪漫。まったり水分たっぷり含んで湿度高い音色、表現。第2楽章「アレグロ」は颯爽とした風情だと思うが、このマイルドな甘美はどういうことか。第3楽章「アダージョ」って弱音にて呟くよう・・・(いや増す憂鬱後ろ向き感情)終楽章「ヴィヴァーチェ」という速度記号のワリにずいぶんとゆったりしているではないか。

 第6番ト長調の明るい、リズムも軽快なる表情にほっといたします。こうしてみるとチェンバロは通奏低音の域を超えて、けっこう対等平等大活躍なんですね(と、ド・シロウトは思う)。緊張感を以て短調に移り、またもとの晴れやかさに戻る第1楽章「アレグロ」。第2楽章「ラルゴ」には嘆きがあり、第3楽章「アレグロ」はチェンバロだけのソロなんです。ヴァイオリン・ソナタにこんな楽章入れちゃうなんてBach ってほんまに凄い!実演では自らが演奏担当だったのかも。

 第4楽章「アダージョ」は足取り重い、深刻なる嘆きが戻ります。この楽章が一番長くて4:20。終楽章は愉しげなる三拍子なんです。これもちょっとずつ表情は曇って陰影豊か。全曲続けると、イーゴリの風情はちょっと(現代には)重いのか。それとも聴き手のこらえ性のなさか。ライヴではなく、放送用音源みたいで、音質は思いの外優秀でした。

(2011年11月25日)


【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi