Bach カンタータ第35/82/52番(ヤコブス/アンサンブル415)



Bach

カンタータ第35番「心も魂も乱れ惑わん」
カンタータ第82番「我は満ち足れり」
カンタータ第53番「いざ、待ち望みたる時を告げよ」(偽作)

ヤコブス(カウンター・テナー)/バンキーニ(v)/ドンブレヒト(ob)/マリー(or)/アンサンブル415

harmonia mundi HMC901273 1987年録音  800円くらいで購入?

 これは1990年代の初期に購入したもので、価格に記憶がありません。(1,000円以上ではないはず)当時は古楽器やカウンター・テナーの知識はほとんどなかったはずだし、いったいどういう経緯で、このCDを手に入れることになったのかは、いまとなってはわかりません。

 カンタータ「心も魂も」は、5分を越えるシンフォニアが聴きもので、俗称「チェンバロ協奏曲第8番」〜但しここではオルガン協奏曲〜なんです。ちょっと哀愁漂う甘い旋律で、メロディ・メーカーBach の面目躍如の傑作。(もう一曲シンフォニアがあって、これが協奏曲の終楽章にあたる)キアラ・バンキーニ率いるアンサンブル415の演奏の冴えはたいしたもので、躍動感溢れるリズムも最高。

 ゴードン・マリーのポジティヴ・オルガンは軽快で、あちこちで大活躍。ルネ・ヤコブスはカウンター・テナーの先駆者でした。ところが、声楽におけるバロック唱法も研究が進んでいるのでしょうか、この曲はいま聴くと未成熟で技術的にもやや不安を感じます。最近の若手はもっと自然で、声の響かせ方にムリがないように思えます。

 それでも、高貴さはじゅうぶん感じました。アンサンブル415(これピッチのことなんでしょうね)の柔らかい響きに乗って、気持ちよく歌っていました。


 「我は満ちたれり」の冒頭、オーボエの旋律がしみじみと遣る瀬ない。(音色が太く、セクシー)ちょうど「マタイ」の「主よ、哀れみ給え」の味わいに似ています。音域の関係でしょうか、ヤコブスの歌も安定していて、ここではなかなかの味わい。涙出そう。

 次のレシタティーヴォにおけるチェロの極限の美しさ、続くアリアのゆったりと安らいだ歌の表情がたまらない。ノンビリとしたオーボエ(のはず)の音色に目眩もしそう。終楽章はややテンポ・アップして、全体を引き締めてくれました。ラストの陰の主役は、やはりオーボエです。


 「いざ、待ち望みたる時を告げよ」は、単一楽章の曲。(ご教授いただいたところによると、「バッハの作ではない。葬式用。アリアのみ」、1730年頃の作、編成はアルト、2ヴァイオリン、ヴィオラ、2グロッケン、通奏低音による、とのこと) いかにも教会風の、柔らかで自然な残響が魅力的な録音。古楽器ではあるが、ヒステリックになったり、エキセントリックさを感じさせることなく、スッキリと柔らかな演奏ぶり。

 音楽史に詳しい方に教えていただきたいのですが、Bach 時代のアルトは女性が歌っていたのでしょうか。カウンター・テナーは「胸声」ですが、カストラートはBach の作品にも関係していたのでしょうか。よろしくお願いします。(2001年3月2日)


 大村恵美子さん著「バッハの音楽的宇宙」(丸善ライブラリー)は、カンタータを本格的に聴き始めたワタシにとっての福音書でした。(カンタータの本はなかなか存在しない)このなかに、カンタータ第82番「我は満ち足れり」の解説が載っていました。

 シメオン老人が、エルサレムで嬰児イエスを見て「嗚呼、これでようやく安らかに満ち足りてこの世を去ることが出来る」と喜びの声を上げた、というおはなし。第3曲「まどろめ、疲れた眼よ」は、「アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」にも書き入れていたとのこと。名曲です。

 死を迎えるしみじみとしたコラールではなく、情熱的、かつ舞曲のようなイキイキとした曲、だそう。(その通り)(2001年3月4日追加)


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written by wabisuke hayashi