カレル・アンチェル/チェコ・フィル
(瑞西アスコーナ・ライヴ1958年)


ERMITAGE ERM 142ADD
Smetana

歌劇「売られた花嫁」序曲

Dvora'k

交響曲第9番ホ短調 作品95「新世界より」

Mussorgsky/Ravel 編

組曲「展覧会の絵」

カレル・アンチェル/チェコ・フィルハーモニー

ERMITAGE ERM 142ADD 1958年10月10日 瑞西アスコーナ・ライヴ→ネットより音源入手

 19年ぶりの拝聴、と思ったら2020年に聴いていて曰く

以前の印象と寸分違わぬアツい興奮をたっぷりいただきました。Karel Ancerl(1908ー1973捷克)50歳壮年の記録、演目も素晴らしい。テンション高い序曲から始まって、ストレートに爽やかな表現に懐かしい旋律溢れる「新世界」、飾りの少ない一気呵成な「展覧会の絵」はセッション録音よりずっとアツい演奏でした。オーケストラの技量云々などまったく気にならぬもの。音質もまずまず、ライヴの熱気を充分伝えております。
 CDは処分済み、ネットより同一音源を入手できました。Karel Ancerl(1908ー1973捷克)ナチスドイツに家族の生命を奪われ、1968年旧ソヴィエット(+当時の同盟諸国軍)に踏みにじられた「プラハの春」を契機にカナダに亡命しております。でも残念、人生に残された時間はそう長くなかった往年の名指揮者。当時チェコ・フィルの音楽監督であり、このオーケストラの黄金時代だったのでしょう。時代を勘案するとかなり良心的な音質、モノラルだけどわずかに広がりも感じさせて、解像度はそれなりありました。

 捷克版「フィガロ」を彷彿とさせて細かい音形がウキウキ躍動疾走する「売られた花嫁」序曲。演奏会冒頭から全力に駆け抜けて会場の熱気は一気に高まります。かなり速いテンポ、縦線の合い方、湧き上がるように明るく、繊細な表情含めて絶好調の出足でしょう。(6:48)

 誰でも知っている旋律連続する「新世界」はアンチェルの十八番。第1楽章「Adagio - Allegro molto」は序奏からさっぱりとした風情に速めのテンポ、前曲そのままの勢いを維持したストレート系、さらりとして陰影豊かな表情。提示部繰り返しなしは残念、この楽章ラスト辺り、魂込めた金管炸裂が凄い!オーケストラの音色にコクがありますよ。(8:48)誰でも知っているイングリッシュホルンによる懐かしい「家路」旋律を含む第2楽章「Largo」もテンポはさっくりと速く、粘った表現とは無縁の淡々仕上げ。ボヘミアの郷愁は自ずと漂うといったところ。フルートとオーボエによる哀愁の第2主題も名旋律!ここもさっさと駆け抜けて7:20辺り、金管が第1楽章の主題と第2楽章の主題を全力で掛け合うところ、金管はたっぷりヴィヴラートに叫んで個性的ですよ。(10:26)

 第3楽章「Scherzo. Molto vivace」は賑やかなスケルツォ。ここもやや速め、ティンパニの楔(リズム)が見事に決まって緊張感あるアンサンブルは圧巻でした。トライアングルの華々しい活躍を期待したいところだけど、ライヴはこんなものかも。トリオのちょっぴりノンビリ雰囲気変化がDvora'kのワザですね。(7:35)第4楽章「Allegro con fuoco」はまるで怪獣の登場風弦の短い序奏から印象的、そしてホルンとトランペットによる決然とした第1主題がわかりやすくてカッコ良い。金管のヴィヴラートは思いっきり個性的、颯爽としたテンポによるアツい快演、そして充分に旋律を泣かせて歌います。基本ストレート系表現だけど、ラスト渾身ののタメは思いっきり決まってますよ。(11:02熱狂的な拍手含む)

 「展覧会の絵」もアンチェルは得意として、いくつか録音が残っております。大好きな作品、ふだんは音質状態よろしく圧巻のオーケストラの技量を聴かせてくださる演奏を好んで聴いております。こちらやや音質は薄いけれど演奏会の熱気も低音もしっかり、力強く速めにリズミカルに進めるのもいつも通り。

 冒頭「プロムナード」のトランペットは前曲でも活躍した個性的ヴィヴラートたっぷり(1:29)「グノーム」の怪しい緊張感(2:13)第2プロムナードを経(0:52)「古城」は淡々と憂愁なサクソフォーンはセクシー(4:11)第3プロムナードは元気よろしく(0:27)そのまま可憐な「テュイルリーの庭」に入ります(1:08)。重苦しい「ビドロ(牛車)」はフレンチチューバ担当、このヴィヴラートは思いっきりエッチに響いて、イン・テンポに無情な足音を刻んで凄い説得力でした。(2:31)

 囁くような第4プロムナードを経て(0:40)「卵の殻をつけた雛の踊り」はユーモラス(1:20)。傲慢な弦による「サムエル・ゴールデンベルク」とトランペットの細かい音形に表現される軽妙なる「シュムイレ」は例のヴィヴラートに流麗な音色に非ず、粗野な感じ、ここも速めのイン・テンポが基本でした(1:55)。「リモージュの市場」は凄い勢い切れ味に快速!(1:09)荘厳に決然たる「カタコンベ 」との対比も際立ちます。金管の粗野なヴィヴラートの魅力爆発、ドラの響きも効果的。(1:51)。「死せる言葉による死者への呼びかけ」(静かなプロムナードは木管のニュアンスたっぷりな1:45)を経て、全曲のクライマックスへ向かいます。

 「バーバ・ヤガー」はキレのある迫力に金管の不器用に濃い個性充分(3:17)そして烏克蘭へ心を馳せて「キーウの大門」へ、ここも詠嘆にテンポを揺らせない、イン・テンポを基本として充分なテンションと盛り上がり、粗野な金管の魅力爆発しております。ラストの旋律を倍に取るのはアンセルメと同じ、これは楽譜の指示はどうなっているのでしょうか。大太鼓のリズムがずれるパターン(これは楽譜どおりとのこと)になって、これも異様な効果を上げておりました。(5:24盛大なる拍手込み)

 一晩のコンサートを彷彿とさせる雰囲気たっぷりな記録。実演では間に協奏曲が挟まるのでしょう。

(2022年3月19日)

 現在は「AURA」とレーベル名を変えた「ERMITAGE」(隠者の住まい、の意)の代表的一枚。おそらくは、この黄金の名コンビがスイス・ツァーをしたとき、スイス・イタリア語放送局が収録したものでしょう。この三曲でも充分コンサートは成り立ちます。(p)1994となっており、正直いくらで買ったか記憶なし。1000円は出していないはず。

 モノラル録音と推察されるが、おそらく人工的に広がりが付加され(それは成功している)たいへん聴きやすい、自然な音質で収録されております。ワルシャワ条約統一軍が「プラハの春」を蹂躙し、アンチェルがカナダに亡命するちょうど10年前のこと。この人、レパートリーは狭かったみたいで、同じ曲ばかり数種CDが出ていたりします。(ワタシのサイトにも「新世界」〜VSOとの〜が)

 「売られた花嫁」における、猛烈なテンションの高さと勢いグイグイは想像通り。コレを皮切りにして、全74:59〜あっという間に聴き終わります。このスピード・切迫感が継続します。正直、ずいぶんと聴いているCDだけれど、コメントをつけるのはとても難しい。あちこちと「ああ、こんなところが!」とか「おお、なんというジミジミとした」みたいな「重箱の隅ほじほじ仕組細部探索」を楽しむべき演奏ではない。

 ライヴならではのアツさと、驚異的なアンサンブルの水準も同時に楽しめます。これが1958年のライヴとは信じられない。

 「新世界」交響曲って、一種特有の親しさ懐かしさ、とか、胸ハズむ希望を感じませんか。いえいえ、このアンチェルの演奏が「ノスタルジーもなにもない」なんて言っているんじゃないんです。もっと自然というか、演奏者にとって当たり前の約束事というか、委細かまわず(ほんまはたいへんにかまっているはずだけれど)一生懸命やったら、こんなアツい演奏になりました、みたいな印象。

 第2楽章「ラルゴ」〜いえいえ「家路」でいいじゃないですか。たまにね、しっかりと「間」をとって切々、という演奏もあるでしょ。そのほうが似合う曲調かも知れません。ここでもスルリ・サッパリと、そして流れよく、快く進みました。やはり勢いがある。オーケストラがね、柔らこうて、ええ感じ。チェコ・フィルってやっぱり、アンチェル時代が全盛期だったんでしょ。

 スケルツォ楽章のティンパニのド迫力。バチさばきに腰入ってます。終楽章〜コレ、次の「展覧会」でもはっきり気付くけど、この金管の切迫するヴィヴラートはなに?音色が泣き叫んでますよ。いわゆる金属的・無機的な金管じゃなくて、人の声が押し寄せるような錯覚がある。いえね、売り物の弦の暖かさ、木管の素朴さになんの文句があろうか?状態は言うまでもなし。

 いわゆるトスカニーニ方面演奏だけど、もっと「一筋」的自信に満ち溢れて、強引さとか、もちろん鈍重さとは無縁のカッコいい「新世界」でしたね。ぼやっと聴き流しちゃいけないよ。はっきり言って、VSOの録音〜なんやら遠慮気味で盛り上がりに欠ける〜とは大違い。


 「展覧会の絵」〜まったく同傾向(当たり前か)の演奏でした。早めのテンポで、テンション高く、さぁ、バンバン行きまっせぇ、的演奏。トランペット?この切迫感にはドキドキさせられますね。チェリビダッケの録音聴いたことあります?微速前進、どのパートももうとことん細部まで徹底濃厚味付け演奏。あの世界とは正反対か。

 こういう曲はカラヤンが上手いんです。これとも路線が違う。表現的にはもちろんだけれど、オーケストラの個性の生かし方じゃないのかな。もっと誠実で、甘さがなくて「端麗辛口」。どちらがカッコよいと感じるかはお好みだけれど、シンプルでトラディショナルなスーツ。オトコに化粧もアクセサリーも必要ないですよ。大切なのは清潔感。(反省します)

 ワタシはアンセルメの語り口の上手い、華やかな演奏が好きだけど、こういう誠実一路な演奏にも胸打たれますね。繰り返すが、とくに〜とくにですよ〜金管が良い味出してますね。トランペットにはなんども(ラストまで惚れ惚れする)触れたけれど、「ビドロ」のチューバのヴィヴラートだってかつて聴いたことのない色気の固まり。「リモージュの市場」における快速テンポ〜それを楽々とこなす金管群の超絶技巧。

 「カタコンブ」〜「ババ・ヤーガ」〜「キーウの大門」〜このクライマックスは金管の魅力爆発。凄く迫力と奥行きを感じるが、空虚なやかましさを感じさせない。アンチェルはいつも知的なんです。そして暖かい。いえいえ存分にアツい。清潔なリズム感もある。一枚聴くとたいへんなる満足感が残って、まさに一夜の演奏会を聴き終えた気分。会場の拍手も暖かい。(2003年8月1日)


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written by wabisuke hayashi