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PMFチャリティコンサート@サントリーホール(2012年7月31日)


(いつものヘムレンさんより、演奏会の感想が届きました)

未来は若者の手の中にある。

この単純明快な命題に賛成しますか、と尋ねたら大半の人は「はい」と答えるだろう。しかし、現実は 大学をでても仕事がなかったり、あっても非正規雇用、破たんすることが明らかな年金制度など、社会の 動きはけっしてそのように動いていない。

そんなことを考えたのは、若い音楽家を集めてプロの演奏家として育てる、ひと夏のサマープログラム PMF、パシフィック・ミュージック・フェスティバルのコンサートを聴き行ったからだ(7月31日、サン トリーホール)。ぼくは、今年でもう3年続けてPMFに通っている。昨年は東京でブラームス2番を、一昨 年は札幌でベートーベンの7番を聴いた。今年も指揮はPMFの音楽監督を務めて3年目となる、世界的な 指揮者、イタリア人のファビオ・ルイージだ。

今宵のプログラムはチャイコフスキーの最後の交響曲となった交響曲6番、「悲愴」。重層的で感情的 な変化に富む曲だけれど、マエストロは若い音楽家たちを束ねたオーケストラを率いてどのように演奏するの だろうか。

第一楽章は、暗く重い主題から始まる。苦悩と解放、絶望と希望があたかも小川を飛び越えるように交 錯する。いわば交錯する主題を並べ、問題提起をする楽章ともいえる。マエストロは、すでにこの第一楽 章で、若者オーケストラを完全に掌握している。

第2楽章は明るい気分がずっと底流を流れるワルツのような優しい曲想が心に残る。実際には4分の5拍 子、つまり三拍子の二回目の最後の一拍を取ったような、ちょっとびっこのワルツである。この楽章だけ は、むやみに明るく晴れやかで、まるで白昼夢をみているようでもある。 そして第3楽章は、あたかもフィナーレのような強烈な2拍子のマーチだ。マエストロのPMFオーケス トラの選曲は、若さの爆発をストレートに表現できるように配慮されているかもしれない。この楽章は、 いわばPFMの若者パワー爆発の図である。それは演奏している若者たちとも強く共有されていた。

普通ならば交響曲の最後において、大爆発で盛り上がって終わればよいところなのだけれど、よく考えてみ ればまだ3楽章なのだ。ぼくはおもわず、禁を犯しても、ここで拍手するという暴挙にでようかとかすか に思ったくらいだけれど、会場には同じ心持で拍手をしかけた人が少なからずいた!

そして第4楽章。「悲愴」という副題を体現するがことき、悲しく絶望感に満ちたモチーフが、やり場 のない怒りと苦悩のもとに提示される。最後、死を強く連想させる鼓動の停止が訪れ、交響曲らしからぬ 静謐の中で曲は終わる。

実をいえば、ぼくはすでに1楽章の途中くらいから、涙と鼻水が止まらずに、その二つの液体が頬の下 のあたりで混ざりあうような極限的な状態で聞いていた。変な話だけれど、心のどこかでマエストロが第3楽 章と4楽章を入れ替えて演奏してくれないかと期待していた。そのようなことがあるはずはないのだけれど、 若さの爆発の直後にやり場のない怒りと苦悩、そして死では、あまりにも救いがないではないか。

ぼくは、未来は若者の手の中にあるという命題を心から信ずる。そう、音楽の世界はともかく、現実 世界においては、怒りと苦悩を乗り越え、若い力の爆発が希望の光をもたらし、未来を構築する。それし か、答えは無いではないか。

マエストロ、今年も素晴らしい演奏だったよ。

(2012年8月4日)

【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi