Wagner 管弦楽作品集(ロヴロ・フォン・マタチッチ/NHK交響楽団1968年)


DENON COCO-6776

Wagner

楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲
歌劇「ローエングリン」第1幕前奏曲/第3幕前奏曲
歌劇「さまよえるオランダ人」序曲
歌劇「タンホイザー」序曲
ジークフリート牧歌

ロヴロ・フォン・マタチッチ/NHK交響楽団

DENON COCO-6776 1968年(新宿厚生年金会館)録音 BOOK・OFFにて250円入手

 このCD、2ヶ月間オークションに出していてついに買い手が付かなかったもの。250円で入手して250円で売るというのが厚かましかったのか。いえいえ、2009年5月くらいから月を追う毎に「オークション不況」は深まったんです。3年以上、ずいぶんと棚中CDを処分したつもり(2,000枚弱?)だから、そろそろ潮時かもね。マタチッチ(1899- 1985)を嫌って出品したワケじゃないので、しっかり聴いてあげることにしましょう。日本には彼のファンは多いはずだけれど、既に忘れられた存在になったのか。

 この大不況の中、日本のプロ・オーケストラが頑張っている様子はは、ネットを拝見すると理解できます。音楽ファンは各々、地元のオーケストラを大切にしているみたい。ワタシの地元だと兵庫県芸術文化センター管弦楽団なんだろうが、年間席を予約しようとしたら(大人気で)全然アウトでした。このCDが録音された1960年代、未だ日本のオーケストラを軽く見る風潮があったんじゃないか。演奏(録音)会場もまだ限られていた時代。悪い録音ではないが、残響に潤いが少々不足する・・・といった印象有。アンサンブルの技量も現在ほどではない。

 Wagner、Bruckner辺りは”オーケストラの色で演奏が決まる”と考えておるので、(この時点の)NHK交響楽団はちょっと厳しいか。ここ数年、すっかりCDは値下がりして往年のバイロイト録音をしっかり33枚(ほぼ全部)聴いた刷り込みがありました。熱心なるオペラ・フリークではないけれど、最近、歌の入らない管弦楽ばかり聴く機会も減りました。閑話休題(それはさておき)

 「マイスタージンガー」前奏曲、始まりました。ワタシはシルヴィオ・ヴァルヴィーゾ盤(全曲)に心底痺れて、あちこちヴィヴィッドな旋律が数ヶ月ノーミソ内で鳴り響いたものです。NHK交響楽団の響きは少々誠実でジミだけれど、マタチッチの表現は雄魂であり、滋味深いスケールを誇りました。ギラギラとした迫力には欠け、中間部の躍動にも足りない・・・静謐なところでのテンションが下がるんです。金管に厚みも迫力は充分だけれど、ティンパニ(+打楽器)の反応が(ちょっぴり)鈍い感じはある。

 それにしても、このまま合唱に入ってオペラは始まる・・・的期待から抜けられない。

 神々しくも静謐なる「ローエングリン」第1幕前奏曲、そして華やかなエネルギー爆発の第3幕前奏曲は、オーケストラの技量を問われることでしょう。弦の弱音は繊細でニュアンスたっぷりで開始されるけれど、やはり”静謐なところでのテンションが下がる”印象はあります。Wagnerの音楽って、肉食系の代表みたいなものだから、1968年の日本では潤いというか、厚みも体力もちょっと不足していたかも。弦は美しいが、金管の爆発に迫力ともかく”色気”が足りない。

 第3幕前奏曲のほうは努力賞ものだけれど、”華やかなエネルギー爆発”に到達しません。「マイスタージンガー」同様、打楽器のリズムのキレが悪いのは指揮者の責任なのか、(当時の)オーケストラの技量問題か。

 「オランダ人」序曲は、厚みのある金管(ホルン!)のラッシュ、ティンパニの迫力も充分。(途中テンション・ダウン有)「タンホイザー」には茫洋たるスケールと迫力を求めたいが、会場残響が少ないから?奥行きが足りない。マタチッチの表現は「マイスタージンガー」同様の貫禄があるけれど、オーケストラの響きはいかにもジミでしょう。熱気とか臨場感とか、バイロイトのライヴ録音を聴いた耳には少々物足りない。コンマスは誰かな?ちょっと神経質なヴィヴラートが美しいけれど。海野さんか。

 「ジークフリート牧歌」はとても良いんじゃないか。金管や打楽器の大爆発がないから、弦や木管の誠実な響き(一流の出来)が際だちます。しかし、弱音が支配する美しい音楽だからこそ、いっそう”静謐なところでのテンションが下がる”印象はあるんです。全体に、やや埃っぽい音質も気になるのは、聴き手の贅沢でしょう。

 でもね、このラストが一番良い出来でしょう。表情を次々と変化させて、オーケストラはマタチッチの指示に懸命に従って感銘有。(どなたか欲しい方に譲りますよ、ほんま)

(2009年9月4日)

【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
▲To Top Page.▲
written by wabisuke hayashi