Wagner 歌劇「タンホイザー」序曲/ジークフリート牧歌/楽劇「トリスタンとイゾルデ」
〜第1幕への前奏曲/愛の死(ヘルベルト・カラヤン/ウィーン・フィル/ジェシー・ノーマン(s)1987年)


DG 4236132 Wagner

歌劇「タンホイザー」序曲
ジークフリート牧歌
楽劇「トリスタンとイゾルデ」〜第1幕への前奏曲/愛の死

ヘルベルト・カラヤン/ウィーン・フィル/ジェシー・ノーマン(s)

DG 4236132  1987年録音

 ワタシはカラヤンの熱心な聴き手ではないし、晩年の枯れた演奏を特別好ましく感じたこともありません。聴取機会の少ないWagnerはできるだけ全曲を拝聴するように心掛けていて、それは声楽が入らぬ中途半端な”サワリ”ばかり、不満ばかり募る・・・しかし、この亡くなる2年前の記録にはすっかり心奪われました。オーディオに造形の深い方はこの時期のDG録音に不満を言及されている方も・・・ワタシは落ち着いて、キラキラしたところないサウンドに不満を感じませんでした。

 「タンホイザー」序曲は馬力あるオーケストラを朗々と鳴らせて〜といったイメージ作品。カラヤンは余力たっぷり残して、かつてのイヤらしいほど細部カッコ付けた旋律表現に非ず、バランス重視、オーケストラの力量を素直に、ムリなく引き出して、いつの間にか厚みのあるサウンドに包まれ・・・といった風情か。大爆発はしていないのに、力感に不足を感じさせぬ美しい演奏。かつての艶々の色気とか、有無を言わせぬ強引な迫力にて上四方固め〜みたいな世界とはずいぶん異なって、”嗚呼、タンホイザー序曲って名曲!”実感させて下さるもの。

 「ジークフリート牧歌」はカラヤン節というか、ワン・パターンといえばそう、語り口の上手い、細部仕上げのていねいなスケールであります。個人的な嗜好は、もっと編成小さく、素朴なテイストに溢れたもの求む!こちらゴージャスに過ぎ、立派過ぎ、ウィーン・フィルの管楽器上手過ぎ、上記「タンホイザー」やら他の大管弦楽と同様の偉容を誇って、これはこれで完成度は驚くべきものなのでしょう。一流の音、やはりかつての妙な(しんねりとした)色彩付からイメージ離れて、これはこれで枯れている手応えも有。

 「トリスタン」始まりました。弦の表情付け、ヴィヴラート凄いですよね。決然とホルン参入すると、その深い音色は尋常に非ず・・・作品が作品、旋律が旋律だから、こんな入念に呼吸の深い官能表現も、みごとに似合って文句はない。前奏曲のサウンド、ほとんど恣意性を感じさせぬ流れ(細部味付けは入念を極めているのに)と洗練に陶然といたしました。ここ最近、Wagnerの管弦楽作品はエイドリアン・ボウルト辺りを聴いていたけど、ちょっと比較が怖いほどの完成度、オーケストラのニュアンス、圧巻のクライマックスへの誘(いざな)い。

 ラスト、ジェシー・ノーマン登場。女性に年齢は失礼ながら42歳の円熟、深い気品とハリ、声量、端正なるスケール、カラヤンはもとよりオペラの人、声楽の魅力を引き出すバランスも最高でしょう。ちょいと収録足らぬ感じもあるけど、聴き手の集中力など配慮して、これでお腹いっぱいであります。数少ない経験中、これほどの感銘を受けた「愛の死」は初体験也。

(2014年3月22日)


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written by wabisuke hayashi