Tchaikovsky ピアノ三重奏曲イ短調 作品50/ARENSKY ピアノ三重奏曲ニ短調 作品32
(V.アシュケナージ(p)/スタンプラー(v)/ジャクソン(vc))


NAXOS 8.550467 Tchaikovsky

ピアノ三重奏曲イ短調 作品50「偉大なる芸術家の思い出に」

ARENSKY 

ピアノ三重奏曲ニ短調 作品32

ヴォフカ・アシュケナージ(p)/リチャード・スタンプラー(v)/クリスティーネ・ジャクソン(vc)

NAXOS 8.550467 購入価格失念  1990年録音

 購入価格失念と書いたけれど、じつはいつ購入したのかもまったく記憶はない・・・ある日棚中にて発掘したもの。1990年代初頭、まだノーミソ柔軟な若者、音楽の見聞を広げようと前向きな姿勢だった頃でしょう。1990年録音といえばNAXOS初期のものだけれど、現役CDであります。NMLでも拝聴可能。著名なるピアニスト/指揮者の息子+ARENSKYへの興味で購入した、と類推します。旧友ニコライ・ルビンシュテインへの追悼として書かれた作品、といった所以ともかく、意外と旋律は知られていないんじゃないか?

 第1楽章は「悲歌的楽章(Pezzo elegiaco)」 は18分に及ぶ大曲。Schumann風浪漫的なチェロの旋律で開始され、哀愁のヴァイオリンがそれを受け取って絡み合います。嘆きのピアノもやがて存在感を主張して劇的。HMVユーザーレビューは絶賛ばかりだけれど、ワタシはヴォフカのピアノが少々叩き過ぎなんじゃないか、と感じます(録音印象かも)。もっと、しっとり瑞々しいタッチを期待したくなるのは、立派な親父が脳裏にあるからでしょう。弦は素直で良く歌っておりました。巨匠風雄弁ではなく、もっと親密。

 第2楽章は、牧歌的安寧の主題が11回変奏(第8変奏はフーガ)され、そのままラストのコーダへと続きます。主題提示するシンプルなピアノも散漫な印象有。シンプルであればあるほど、ピアニストの神髄が問われるものです。(じつはそうとうな難曲らしいが)かなり哀愁劇的な色濃い第1楽章に比べ、優しくも懐かしい静謐さに、やがてが哀しみが滲むといった風情が印象的な20分、変化に富んで飽きさせない楽章続きます。(できれば変奏ごとにトラック分け望みたかった)第9変奏「Andante flebile ma non tanto」の沈溺した雰囲気が白眉か、第10変奏「Tempo di Mazurka」に於けるピアノはハズむようなリズム、上手いもんですよ。

 ラスト第11変奏は葬送行進曲風、これが劇的溌剌としたフィナーレ(コーダ)との対比となって効果的なんです。全49分程の大曲、前向きの明るい激情(ラストは慟哭へと至る)を伴って全曲を締め括ります。名曲を座右に置く、という点で文句ない演奏ながら、もっと別の凄い世界がありそうな、そんな期待も少々・・・

 上記1曲で充分CD一枚分なのに、ARENSKY(30分程)収録限界ギリギリまで聴かせて下さるのがありがたい。上記作品以来、亡き友人にピアノ・トリオを捧げる風習となった、とのことで、これも同趣旨の作曲経緯らしい。この人の旋律はTchaikovskyより濃厚甘美に過ぎない、抑制された哀愁漂います。可憐でキラキラするような旋律連続の第1楽章「アレグロ・モデラート」。剽軽で軽快なる第2楽章「アレグロ」〜これはスケルツォですね。ピアノの華やかな技巧も映えて、繊細かつ陽気な躍動続きました。

 第3楽章はエレジー(哀歌)であって、ひんやりとした静謐な泣きが、弱音器付きの弦で歌われます。これもピアノとの絡みが上品だなぁ。 消え入るように終え、激情の最終楽章へ。とくにピアノが劇的であって、チェロが諫め役か。その対比が美しくも効果的。やがて第1楽章第1主題が切なく回帰し、全曲を寂しく終えました。

 この作品も、ヴォフカ・アシュケナージをヴェリ・ベストとは言えぬ水準か。もっと美音やら洗練が欲しいところ。

(2010年4月16日)

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written by wabisuke hayashi