Spohr ヴァイオリン協奏曲第8番イ短調
/複弦楽四重奏曲第1番ニ短調(ヤッシャ・ハイフェッツ)


RCA 09026-61756-2  800円で購入
Spohr

ヴァイオリン協奏曲第8番イ短調 作品47

アイズラー・ソロモン/RCAヴィクター交響楽団(1954年録音)

複弦楽四重奏曲第1番ニ短調 作品65

アモイヤル/ベーカー/ローゼンタール(v)/トーマス/ハーシュマン(va)/ピアティゴルスキー/レッサー(vc)(1968年録音)

Beethoven

セレナード ニ長調 作品8

ピアティゴルスキー(vc)/プリムローズ(va)(1960年録音)

以上 ヤッシャ・ハイフェッツ(v)

RCA 09026-61756-2  800円で購入

 毎度毎度の戯言でございます。

 このCDも再聴10年を経、珍盤の類に至ったか?最近、その存在を市場に探せません。(NMLだったら聴けるが)RCAとレーベルそのものが我らがSONYはんに吸収されてしまったし、得意の「オリジナル・ジャケット」集成発売を待つしかないのかも。再聴ののキッカケは例の協奏曲100枚組の96枚目に含まれる、トーマス・クリスチャン(v)/ディトフリート・ベルネット/ウィーン交響楽団(1975年)のSpohr演奏がイマイチな印象だった(刺激的な音質も酷い)ため。関連記事を検索すると、こんな手抜きコメントが出現して、深く反省したものです。

 トーマス・クリスチャンは来日もしたことがあって、教育者としてけっこう著名らしい。情報ネット検索すると”ハイフェッツの弟子”とのこと。ほんまかいな。こちら1954年の録音、ハイフェッツのソロばかり聞こえてきて、伴奏はほんの付け足り、といった風情は相変わらず。 あまりぱっとした音質ではない(+オーケストラも冴えない)。第1楽章「Recitative: Allegro molto 」/第2楽章「Adagio - Recitative: Andante」/第3楽章「Allegro moderato」に分かれるが、続けて演奏され、歌心溢れて自在なる旋律連続であります。ヴァイオリンはなんの労苦の跡も見せず、颯爽と妙技を披瀝してサラサラと粘らない。雄弁な節回しを強調しない。あくまでクール。

 終楽章はほとんどPaganiniの世界に近くて、超絶技巧は快速テンポで駆け抜けました。弟子筋(?)のクリスチャンにくらべると、ほんま素っ気ないほどのサッパリ味でありました。

 複弦楽四重奏曲第1番ニ短調 作品65は凄い名曲!前作品よりずっと端正で、立派な構成を感じさます。短調のMozart といった風情漂う第1楽章「アレグロ」、他の演奏に比べて、ほんの少々短いといったタイミングなのに、どの楽章も快速に感じます。語り口がサラリとしておるのだね。軽快にリズム弾む第2楽章「スケルツォ」にも哀愁たっぷり風情が漂います。第3楽章「ラルゲット」は纏綿と歌うところなんだろうが、粛々淡々とわずか3分経たずに終え、終楽章「アレグロ・モルト」は晴れやかに、軽快軽妙に締め括って、陰影ある旋律も美しいこと限りなし。

 なんせ名手の集まりだから、緊密なアンサンブルというより、一気呵成に皆競って走ってみました、的風情の演奏であります。音質良好。

 Beeやんのセレナードは10年経っても馴染みの作品とは言えませんな。Beeやんにしては、ずいぶんと繊細な旋律が連続して、彼らしい威厳も少々有。第2楽章「アダージョ」の端正な味わいは絶品!第3楽章「メヌエット」開始の強面なるリズム強調もBeeやんらしいが、おそらくは上機嫌なのでしょう。続く第4楽章「アダージョ」は沈鬱なる思いに沈み、劇的〜やがて一応の光が差すように「スケルツォ」が挟まり、冒頭の暗い情感に戻ってしまう・・・

 楽しげに踊るような第5楽章「アレグレット」(暗転もあって陰影豊か)を経、第6楽章「アンダンテ」は得意の変奏曲であります。Haydn風端正だな。ここが全曲中一番長い楽章でありキモ。第7楽章「アレグロ」は賑々しくリズムを刻み、終楽章「行進曲」っておきまりの楽隊の退場でしょうか。こんな楽しいBeeやんは厳つい交響曲からは想像できません。ハイフェッツらは文句なしのテンションを最初から最後まで維持しておみごとであります。

(2010年6月25日)

 ハイフェッツというヴァイオリニストは、ワタシの中で絶対の存在です。音色がどうの、とか、歌い回しが、精神性が、などの評論外。演奏が始まると、サラリサラリと音楽が流れていって、一気に吸い込まれて最後まで走ってしまう。

 ハイフェッツ大全集は凄い企画でしたね。RCAは、過去の遺産を集大成して売るのはじつに上手い。ファンとしても嬉しい限りですが、ワタシのような「安物買い」は必ず数年後に発生する「売れ残り処分」乃至「中古放出」を狙います。「全集」は、一枚一枚人気のあるなしで売れ行きが違ってきますからね、かならず余るものが出るんですよ。

 この一枚も、そんなこんなで800円で購入。

 ハイフェッツのSpohr作品集は1784年生まれのドイツの人だから、Weberとほぼ同い年ですね。最近、NAXOSやマルコ・ポーロが熱心に録音してくれていますが、録音に恵まれずあまり知られていません。ワタシはFMで聴いた複弦楽四重奏曲(クリーヴランドとメロスSQによる)にすっかり痺れて以来、目に付いたCDは買うようにしています。Weberに匹敵する、親しみやすい旋律の宝庫。

 ヴァイオリン協奏曲は全部で15曲あるそうで、旧くはクーレンカンプのLPを持っていました。「劇唱の形式で」とかなんとかいった副題が付いていましたが、看板に偽りはなくて人が歌うような旋律が多彩な名曲。でも、録音が少ない。マイナー・マニアの私は、このCD以外にカラフィロヴァ(v)/ステファノフ/フィルハーモニア・ブルガリカ(SOUND CD2003)による、わりと新しそうな録音もちゃんと所有しております。

 アイズラー・ソロモンは、ハイフェッツの旧い録音のバックでしか知られないアメリカの指揮者。ワタシ好みのRCAヴィクター交響楽団というのは、録音場所がなのでグレーンデール響と推察されます。巨大な洞穴で演奏したような「ボワン」とした音になっていますが、ハイフェッツのヴァイオリンを中心にした旧い録音スタイル。速いテンポで鮮やかに流れるような演奏はいつも通り。

 ハイフェッツは室内楽の録音もたくさんあるのですが、協奏曲の時と変わらぬスタイルで、やはりワン・マンなんですね。つまり、ハイフェッツ一色に塗りつぶされる。
 複弦楽4重奏は「短調のモーツァルト」ばりの劇的で美しい旋律の名曲ですが、快速のテンポ。1/8人のはずのハイフェッツばかり聴こえてくる不思議。室内楽ではなくて、協奏曲になってしまうんです。クリーヴランドとメロスSQによるしっとりとした、親密な演奏とはまったく別物の味わいですが、これもまた一興。

 Beethoven のセレナード、という曲は初めて聴きました。3横綱揃い踏みといったメンバーですが、Beethoven らしいちょっと生真面目で威厳のある音楽でしょう。(セレナード、なのに?)演奏は想像通り、前のめりのリズムで速いテンポ、天性の歌心溢れる楽しいものです。


 その後・・・・・・。朝日新聞に「このCD、全国で引っ張りだこ〜売り切れ」みたいな記事が載っていました。なんかの子供向けコンクールの課題曲になったようで、いっせいにお母さんが買いに走ったらしい。CPOでSpohrのヴァイオリン協奏曲全集(未聴)は出たけれど、ちっともメジャーなレパートリーとならないための現象らしい。

 録音も旧いし、だいたいハイフェッツをお手本にしちゃいけません。ハイフェッツを聴いて絶望した若手ヴァイオリニストはいくらでもいるらしい。(2000年7月15日)


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written by wabisuke hayashi