Schumann ピアノ協奏曲イ短調
(デ・ラローチャ/デュトワ/ロイヤル・フィル)


Schumann ピアノ協奏曲イ短調(デ・ラローチャ/デュトワ/ロイヤル・フィル)気品漂うラローチャの容姿
Schumann

幻想曲 ハ長調 作品17(1975年)
アレグロ ロ短調 作品8(1971年)
ロマンス 作品28-2(1971年)
ピアノ協奏曲イ短調 作品54(1980年)

アリシア・デ・ラローチャ(p)/デュトワ/ロイヤル・フィルハーモニー

英DECCA CD5 (The Art of Alicia de Larrocha DECCA 473 813-2 7枚組中古1,650円)

 こんな素敵な7枚組が、ある日1,650円(定価6,300円)で眼前に出現〜日頃の善行(ウソ)の成果でしょう。間違いない。女性に年齢の話題禁物だけれど、各7枚組のジャケットは彼女(少々若い頃から順繰り)の写真集になっていて、内面から滲み出るなんという魅力、気品でしょうか。ピアノ協奏曲は新録音が出た(未聴)せいか、忘れられた存在かもしれません。馴染みの作品であり、なんども楽しく聴いてきたはずだけれど、これほど感銘深い経験をしたのはほぼ初めて。音楽は出会いなのか、それとも聴き手のゆっくりとした成熟ですか?

 Schumannは交響曲以外ならなんでも好き・・・といった罰当たり者だけど、ピアノ作品はとくに、ココロときめくひとときを必ず保証して下さる、素晴らしき世界だと感じてきました。思いも掛けず気紛れに移ろいながら、夢見心地に誘(いざな)う幻想的旋律連続の妙。強靱圧倒的な技巧を要求されるだろうが、あくまで華やかに、軽やかに、ゆったり歌っていただかないと楽しみ半減でしょう。強面じゃいけない。静かに微笑みながら、愉悦感溢れる旋律を楽しませて下さいね。

 「幻想曲 ハ長調」は女性の音楽だと思うんです。煌びやかで、可憐で切ない・・・宝石を鏤(ちりば)めたような冒頭から、ピアノの響きが漆黒に重くならない。威圧感がない。暖かい。浮き立つように微笑みつつ、ステップは余裕がある。やがて転調につぐ転調繰り返して、表情は陰り、愁いを含んでしっとりと、まるで名残惜しく振り返るように音楽は歩み、時に立ち止まります。やがて嘆きがやってきて、それは激昂ではない。

明らかにスタインウェイではなく、もっと柔らかく、滋味深く(例えて言うならオルガンのような)しっとりとした、横に広がるような響き。ベーゼンドルファーでしょうか。ほとんど別の作品か、と見まがうばかりに瑞々しく優しい表現が頻出していて、特別テンポが遅いわけじゃないのにゆったりとした感触有。切なく聴き手の胸を擽る、暖かい空気。カッチリしていなくて、いかにも気紛れでウェットで、幻想的官能的・・・(「音楽日誌」より)
 〜そんなこと自分で書いてましたね。(楽器は確かめたわけではないけど)第2楽章「中庸に、程よく常に精力的に」 は、晴れやかで前向きな表情。第3楽章「ゆっくりと、つねに静けさをもって」 〜もともとBeethoven の記念碑を建てる資金集めの作品だったそうで、作品引用がたくさんある・・・らしいが、最終楽章はテイストだってとてもよく似てますね。静かで極上の緩叙楽章旋律続いて、万感の想い漲(みなぎ)る大団円へ。

 アレグロ ロ短調 作品8/ロマンス 作品28-2(3曲のロマンスの第2曲)は初耳だった(はず)だけれど、甘すぎない想いを込めて、繊細でした。

 さて、ピアノ協奏曲イ長調・・・現在入手困難なはず。デュトワのバックは、いつものように完璧のバランスと柔和な表情である(個性不足か?)のは想像通りでしょう。ラローチャのソロは、しっとり静謐で暖かい味わい溢れて、奥床しいのに華がちゃんとある。いつも聴き馴染んだ作品だけど、このコンビだと静かに呟いているように聞こえますね。いえいえ音量、迫力に不足するわけじゃないけれど。そっと陰で涙を拭いているような風情か。

 先のソロ演奏から想像されるように「間奏曲」が絶品。まさに「静かに呟いているよう」〜淡々と寂しげであって、諄々と味わい深い。終楽章も抑制が利いて、決して走らない。やさしく語りかけるようであり、「アレグロ・ヴィヴァーチェ」なのに、これもしっとり静謐な落ち着きが漂います。音の粒は柔らかく暖かい光沢に充ちていて、激昂とは無縁でありながら万感胸に迫って、にこやかに、そしてちょっぴり切なく喜びを伝えて下さいました。

(2005年9月16日)


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