Schubert 弦楽四重奏曲ニ短調「死と乙女」
(Caspar da Salo Quarett)
Schubert
弦楽四重奏曲ニ短調「死と乙女」 遺作 D810
弦楽四重奏曲ハ短調 遺作 D703「アレグロ アッサイ」(断章)
カスパー・ダ・サロ弦楽四重奏団
PILZ CD 160 231 録音年不明 1,000円
(p)1988 Pilz Medis Group となっていて、おそらく購入したのがその1988年。大阪在住時で、ジャスコで「Vienna Master Series」は1,200円で売り出されていた記憶があります。安かったんですよ。もうほとんどLP製造末期で、CDの虹色に輝くアルミ蒸着面が妙に美しく思えたもの。今は昔。
Caspar da salo Quartett 名義のCDはPILZで少なくともHaydnが2枚、Schubert が2枚出ていて当然幽霊団体。PILZには、ザルツブルク・モーツァルテウム弦楽四重奏団という、かなり実在っぽい(各パートの名前明記。ただし、そうとうノンビリとした演奏)団体による録音もあるが、こちらはいずれも立派な演奏だし、録音も良い感じです。
ヴァイオリンは16世紀に発明されたらしくて、インターネットで検索すると「アンドレア・アマティ。同時代の名工ガスパロ・ディ・ベルトロッティ・”ダ・サロ”。そして、その一世代前の伝説のフィドル職人カスパー・ティーフェンブルッカ。この3人のうち誰かが発明した」なんて、出てきますから(勝手に引用ごめんなさい)「Caspar da salo」というのも、その辺りからの命名でしょうか。一説によると「イタリア弦楽四重奏団の演奏である」、とのこと。
ワタシの世代ではないが「死と乙女」は、かつて来日団体の「必須アイテム」だった、とのこと。室内アンサンブルにおける「四季」みたいなもんでしょうか。この作品も(Schubert にありがちな)40分を越える大作。LP時代は「コレ一曲」収録も珍しくありませんでした。例の如しの「つぎつぎと旋律が溢れて止まらない」といった結果みたいで、嗚呼!美しい作品。
第1楽章「アレグロ」が緊張感に溢れて劇的、ここが少々俗っぽい印象を与えて敬遠される方もいらっしゃるでしょうが、これほど切なくて、胸がアツくなる旋律も珍しい。アンサンブルが信じられないくらい引き締まっていて、ま、ワタシは室内楽方面はあちこち聴いていないけれど、きっとコレ、そうとう現代的でスッキリとした演奏だと思います。名前やレーベルで判断することなかれ。
第2楽章「有名なる歌曲”死と乙女”が主題として・・・」って、元歌を知らんからなんともコメントできないが、変奏曲ですか?切々と哀愁漂っちゃって、この辺のトロ甘さがSchubert の魅力でっせ。ここ、あとで確認が必要だけど、もしかして徹底的に劇甘ポルタメント系で仕上げている、大昔録音がありそうなかんじ。(良いんじゃないの)
このCDは、やや知的抑制型かな?背筋が伸びたヴァイオリンでね、チェロも雄弁になりすぎない。集中力はたいしたもんです。ラスト、ゆっくりとテンポが落ちていって、静かに静かに終わっていくところは息を詰めて聴くべし。第3楽章は短いスケルツォだけれど、既に諧謔曲という概念を大きく逸脱して、巨大なる悲劇が雄弁じゃない?
終楽章は、なんやら不安〜快活なる解決の歓びへと至って充実しております。Schubert 後期の作品は巨大で素敵な作品が多いが、一歩間違えば冗漫でダラダラした世界になるやもしぬおそれがあるでしょ?(代表例/交響曲第9番ハ長調、ほか多数)この作品、集中力が繊細で、「カスパー・ダ・サロ弦楽四重奏団」が最後まで聴き手を離しません。いや、ほんま。
で、じつはですね、ワタシこの「断章」が大好きなんです。コレ、全部が全部Schubert を聴き込んでいるわけじゃないから自信ないが、最高傑作かも。暗鬱たる細かい旋律の振動から、ヴァイオリンが高らかに天衣無縫の旋律を歌うでしょ?この主旋律はなんど聴いても大好き。この切ない歓び。明るく広がる世界。
そして、「ああ、いいなぁ」なんて油断していると、不安の影は再び近づきます。9:15の甘美な世界。手元に(おそらく)戦前のブダペスト弦楽四重奏団のCDがあって(ARC T20P-505)、こちらは正真正銘ポルタメント乱発の甘い世界が広がって、えもいわれぬ快感有。(涙)7:09で2分も短いのはSP収録に合わせたためでしょうか?
PILZ盤は、もっとモダーンでスリムな演奏です。ワタシはBeethoven の弦楽四重奏曲は苦手としているが、こちらはホンマに楽しめましたね。「カスパー・ダ・サロ弦楽四重奏団」名義の録音は、各種怪しげなレーベルでいくらでも中古屋で転がっているから買ってあげてください。録音も上々。(2002年10月11日)
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