Schubert 幻想曲ハ長調 作品159(ギドン・クレーメル/エレーナ・バシキローヴァ)


PHILIPS PHCP-9044  1980年録音 1,450円(税込)で購入 Schubert

幻想曲ハ長調 作品159(遺作)

Stravinsky

デュオ・コンチェルタント

Prokofiev

無伴奏ヴァイオリン・ソナタ ニ長調 作品115

Ravel

ヴァイオリン・ソナタ(遺作)

Satie

右と左に見えるもの=眼鏡なしで

Milhaud

ギドン・クレーメル(v)/エレナ・バシキローヴァ(p)

PHILIPS PHCP-9044  1980年録音 1,450円(税込)で購入

 現代最高のヴァイオリニストのひとりであるクレーメルは、オイストラフの弟子だけれど、その芸風はまったく異なります。艶やかな音色、研ぎ澄まされた技巧の冴えはもちろんだけれど、一見、涼やかでスマート、スタイリッシュ、ヴァイヴラート控えめ、その実、燃えるような端正な官能を感じさせます。クレーメルの演奏を初めて(もちろん録音で)聴いたのは、たしかウィーン響とのBach 協奏曲。緊張感と粗いバックの記憶しかありません。

 やがて数年後、FMから流れたSchubert の幻想曲ハ長調に打ちのめされましたね。暗黒の世界に一条の光が射し込み、やがて深く、長い眠りから覚醒するかのような快い冒頭。そして馥郁たる香りに包まれ、生命が謳歌されます。いくらでも甘く、媚びた表現も可能な作品だと思うけど、濡れたような瑞々しいヴァイオリンは背筋が伸びて、真正面から愛を歌っております。

 演奏者を確認し(エア・チェックもしたかも知れない)このCDが発売されると即購入した記憶もありました(1993年)。爾来十数年、他の演奏でこれほどの満足を得た経験はありません。歌い過ぎず、そして不足もない。

 後の作品は「いかにも」的クレーメルのレパートリーであり、その美しさに打たれること連続。デュオ・コンチェルタント(協奏二重奏曲)はシゲティの記憶から、晦渋さと破壊は影を潜めリリカルでエキゾチック、なんと平易な音楽に変身していることでしょう。ある時は鼻歌交じり、軽快にユーモラスに。抑制された歌が説得力深いのはSchubert に変わりありません。

 シニカルで乾いた激情・・・といったイメージのProkofievもなんだか楽しげです。そうとうな難曲と思うけど、カル〜くすいすいと、あくまで美しく・・・といった味わい続きます。

 Ravelのヴァイオリン・ソナタ(遺作)は聴かれる機会が少ないでしょうか。良く知られたものとは別の作品、もっと自由に妖しくて、ブルースのテイストさえ感じさせる名作。クレーメルは終始、自由自在、はかない生命(いのち)を慈しむように、呟くように細部を表現します。これはSchubertと並んで、このCDもうひとつの白眉ですね。部屋中に霧が充満するように幻想的、見通しあくまで明快。そして静謐。

 Satieの作品ってとても不思議でして、ヴァイオリンの姿がとても曖昧なんです。無機的なピアノにちょいと色付けしているだ。音楽そのものがやる気ない?ふざけているような。Milhaud(ミヨー)の「春」は、このCDのアンコール・ピースですね。じんわりと雪が解けていくような、暖かい快感有。

 このCD一枚で一晩のコンサートを構成しているような素敵な一枚。バシキローヴァのピアノは、あくまでヴァイオリンを立て、しっかりとした存在感がありながら、やや地味目でした。この録音当時はクレーメル夫人でしたっけ。(2004年8月6日)

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written by wabisuke hayashi