Vaughan Williams 交響曲第9番ホ短調
(マルコム・サージェント/ロイヤル・フィル1958年初演)


UK/World premiere performance at the Royal Festival Hall, 2nd April 1958, broadcast on the BBC Home Service. Vaughan Williams

交響曲第9番ホ短調

マルコム・サージェント/ロイヤル・フィルハーモニー

1958年初演 UK/World premiere performance at the Royal Festival Hall, 2nd April 1958, broadcast on the BBC Home Service.

 日本じゃ人気作品じゃないから、どうということもない話題なのでしょう。作曲者逝去前4ヶ月の初演音源、良質の音質、しかも無料にてネットより入手可能であることに驚きました。英国紳士サージェント入魂の演奏也。オーケストラはビーチャム存命時代のロイヤル・フィル、技術云々別にして、現在よりこの時期のほうが調子良いんじゃないか、いくつかの録音を聴いてそう思います。晦渋で暗鬱、起承転結がわかりにくい、劇的なのに地味な作風也。ありきたりな話題だけれど、RVWも「第9番」の呪縛だったんですね。サキソフォーン3本(これが全編、怪しいサウンドに寄与)、多種多様なる打楽器+チェレスタ+ハープ2台といった特徴ある編成。全30数分。

 第1楽章「モデラート・マエストーソ」 。例の如しの曇天が低い英国の景色だけれど、嵐が接近しているような、戦い間近(しかも敗北間違いなし)のような暗い切迫感で開始。絶望の嘆き、絶叫が連続して、つかみどころが見あたらない。RVWの交響曲って、一般に”つかみどころがない”印象はあるんだけれど、いっそうラストに至ってその傾向強まっております。第2楽章「アンダンテ・ソステヌート」 。寂しげなるトランペット・ソロ(?かな。エエ音で鳴っております/フリューゲルホルンらしい)に誘われ、密林の中を彷徨うかのような、冒険活劇風リズム旋律が交互に顔を出します。熱帯樹林ではなく、気温は低く、ひんやりとした空気立ちこめ、そこからいつまでも抜け出せない。

 第3楽章「スケルツォ」 〜サックス(この楽章が一番の大活躍)+シロフォンのユーモラスな開始による、剽軽な?リズムと足取り・・・不安、絶望ヤケクソの行進のようなテイストが続きます。中間部の弦の旋律に甘さの欠片もなく、金管+打楽器の爆発にカタルシスはない。「魔法使いの弟子」が身を持ち崩し、長じて殺人事件でも起こした悲劇的テイストか。この楽章が全曲の白眉。終楽章「アンダンテ・トランクイロ」 〜弦による静かな旋律は、行方がわからぬまま彷徨う不安に充ち満ちております。やがて金管によるコラール風旋律が登場するが、これも尻切れのようにモノローグに収束して山場を作らない。やり場の詠嘆が延々と継続し、激昂し、やがてクライマックスへと向かいます。

 こしてみると、聴き手泣かせ、困った作品でんな。初演の評価はどうだったんだろう?結果的に「全集」は数多く録音されているから、この「第9番」もけっこうな数はあるんです。棚中には5種ほどの全集があるんだけれど、この作品の印象はほとんどない・・・現代の若手は新たな切り口を見せておりますでしょうか。サージェントはヴィヴィッドな活力に充ちて、第3楽章「スケルツォ」の盛り上がりなど、そうとうなもの。サキソフォーンの絡み合いが特異な魅力となっております。

 たったこれだけの(しかも内容らしい内容のない)文書執筆に、4回ほど聴き直しましたよ、一部繰り返しも含め。こうして馴染みの世界のみに安住せず、音楽聴取の幅を広げていく・・・そんな努力が必要なのでしょう。お粗末。

(2011年3月5日)

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written by wabisuke hayashi