Ravel 「ラ・ヴァルス」「シェヘラザード」(アンセルメ/パリ音楽院管弦楽団/ダンコ(s))
de Falla 「スペイン庭の夜」(ブンランカール(p))
Ravel
「ラ・ヴァルス」(1947年)
歌曲集「シェヘラザード」(1948年)
エルネスト・アンセルメ/パリ音楽院管弦楽団/シュザンヌ・ダンコ(s)
de Falla
交響的印象「スペインの庭の夜」
ジャクリーヌ・ブランカール(p)/エルネスト・アンセルメ/スイス・ロマンド管弦楽団(1942年)
Honegger
交響詩「夏の牧歌」
エルネスト・アンセルメ/スイス・ロマンド管弦楽団(1942年)
CENTURIONCLASSICS IECC10006-6 10枚組1,990円のウチの一枚
アンセルメの歴史的録音10枚組購入は大正解でしたね。見た目も出目も怪しいセットだけれど、価格/時代からは想像も付かないほどの優秀なる音質と演奏水準・・・「ラ・ヴァルス」は、遠方より物憂く流れてくる崩れかかった”粋な”ウィンナ・ワルツであり、どこかシニカルでクールな雰囲気漂う名曲。緻密に組み立てられた作品だけれど、独墺系重心の低い、濃厚なオーケストラや表現で聴いてもツマらんのです。
淡彩だけれど華やかで繊細、軽快な(頼りない?)響き、パリ音楽院管弦楽団はまさに”粋”であって、目眩く感動を保証して下さいます。旋律表現としては、さっぱりすっきりとしたものでして、悠々と詠嘆するものではないんです。渾身の大爆発で威圧するのでもなく(低音を強調しない)、あくまで”粋”な風情を崩さない・・・この作品が終わるまで、音質云々の留保はありませんでしたね。モノラルながら驚異的な優秀録音。
往年の名歌手シュザンヌ・ダンコ(s)(1911年ブリュッセル〜2000年)で「シェヘラザード」が楽しめます。レオン・ルクレール(トリスタン・クリングゾルの変名で〜いかにもワグネリアンだ!)の詩に旋律を付けたものであって、「アジア(Asie)」「魔法の笛(la flute enchantee)」「つれない人(l'indifferent)」の3曲からなります。詩の意味合いは理解できないが、妖しくもお洒落なフランス語の響きと旋律を楽しみましょう。
この作品はワタシにとって特別なるお気に入りであって、言語の意味合い理解の範疇を越えて、夢見心地に誘(いざな)ってくださるんです。シュザンヌ・ダンコといえば1950年代、ウィーン国立歌劇場一連のMozart オペラ録音での印象が強いけれど、清潔であり、優雅で凛として(これまた)”粋”であります。かなり良質な音質であって、もしかしたら1953年英DECCA録音の(勝手な)流用かも知れません。
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オーケストラはスイス・ロマンド管弦楽団となり、「スペインの庭の夜」へと移ります。ブランカールは、アンセルメと録音をいくつか残しているスイスの女流だそうです。「LYSレーベル」辺りで出ていた放送音源と類推され、先の2曲と比べて年代相応の音質(劣悪ではない)となりました。アンサンブルもちょっと落ちるかな?「ヘネラリーフェにて(En el Generalife)」「はるかな踊り(Danza lejana)」「コルドバの山の庭にて(En los jardines de la Sierra de Cordoba)」の三部から成り立っていて、官能的な蒸し暑い夏の夜を連想させます。印象派の音楽に間違いないが、Wagnerの官能が充満していませんか。
ピアノ協奏曲風作品だけれど、ソロとして目立ちませんね。キラキラと水の動きを表現しているようでもあり、主役はあくまで管弦楽なのでしょう。静謐で動きの少ない第1楽章を経て、第2楽章は躍動して表情も明るく、ピアノはリリカルな味わいであって、硬質に目立たない。音楽は途切れず第3楽章へ(但し、このCDでは勝手に「間」が空いてしまって、まさに間が抜けておりますが)。ラストは少々ノリが足りないような、もっと華やかに大爆発してもよろしかったか、と思います。
この一枚は音源編集(コンピレーション)として優れており、ラストはHonegger「夏の牧歌」となります。知名度低いが名曲なんですよ。爽快な高原の空気を思わせるホルン、草原の輝きのような弦、空を舞う鳥を連想させるフルート・・・中間部は管楽器による軽快素朴なる舞曲であって、弦楽器も加わって昂揚します。そんな喧噪もやがておさまって、いつもの田園風景がいつまでも広がる・・・
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