Rachmaninov ピアノ協奏曲第3番ニ短調(エミール・ギレリス(p)/
アンドレ・クリュイタンス/パリ音楽院管弦楽団1955年)


membran/Documents233018/CD4 Rachmaninov

ピアノ協奏曲第3番ニ短調 作品30

エミール・ギレリス(p)/アンドレ・クリュイタンス/パリ音楽院管弦楽団(1955年録音)

membran/Documents 233018/CD4 10枚組1,000円

 ギレリス39歳。鋼鉄のピアニスト仏蘭西演奏旅行時のEMI(パテ・マルコーニ)録音也。英EMIでは既にステレオ録音が実用化されていたからモノラル収録は残念なことです。パブリック・ドメインになっているから、どこかのネットで音源を拾えることでしょう。オリジナルはもっと収録が多いんだけれど、この激安ボックスでは潔く38:26で1曲のみ、これでもよろしいんじゃないか。なんせ内容濃いですから。音質まぁまぁ、ピアノの繊細なタッチはよくとらえられ、オーケストラの響きは少々弱々しく厳しいかも(演奏の質問題に非ず)。

 第2番に比べちょっと人気が落ちるけれど、それでも第1/4番よりずっと演奏機会は多いでしょう。40分切っているからテンポは速いほう。燃えるような情熱でバリバリ弾き進めていく方向を想像したが、ギレリスはむしろ繊細リリカルな〜そりゃ壮絶な技巧のキレ+迫力に間違いないが〜細部ていねいな仕上げと聴き取りました。超難曲に挑む意欲というより、キラキラと旋律の美しさが際立つ正確なピアノであり、けっして”鋼鉄風硬質”一辺倒強引なるタッチではない。種々様々第3番の演奏を聴いてきたが、これはベストに近いかも知れない・・・音質除けば。

 甘美浪漫な旋律満載作品だから、ウェットで神妙、粘着質、そういった方向表現も有なのでしょう。第1楽章「アレグロ、しかしあまりはなはだしくなく」は心持ち速めのテンポで肌理細かく、キラキラとしたタッチにて進みます。浪漫に揺れるような旋律は、粘着質表現に非ず。素晴らしく粒の揃ったタッチが美しく、むしろ粛々淡々、”燃えるような妖しい興奮”ではないんです。作品が作品だからテンポ・アップして盛り上がりには欠けぬが、むしろクールかつ淡々としたな感性が基本かと思います。カデンツァは短いもの。

 第2楽章「間奏曲、アダージョ」。ここもいっそう甘美で瞑想的な旋律継続。クリュイタンスのオーケストラは美しく洗練されております(音質ともかく/ちょっと遠くて薄いのだな)。雪崩のように下降する音型で突入するピアノは、そっと知的な佇まいを崩さず、タッチはメリハリはっきりしとしてデリケート。壮絶技巧を流麗に発揮すべき旋律続くが、劇性を強調(いくらでもできるだろうが)しません。安定した技巧の冴えが旋律の美しさを際立たせます。ワルツ風エピソードのリズム(のキレ)も快いこと!

 終楽章。ピアノ・ソロのめまぐるしくも細かい音型に、聴き手は興奮を誘われ、音楽はアツく進行いたします。ここでも技巧を駆使して圧巻の興奮に誘う!といった風情ではない。細部入念描き込んで、曖昧さ皆無、雰囲気と情熱のみで走らない。タッチは強靱、充分力強く、ラストの盛り上がりに不足はないけれど、健全知的と聴き取りました。こんな演奏如何でしょうか。

(2011年11月12日)


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written by wabisuke hayashi