宇野 功芳「新版・クラシックの名曲・名盤」

なにかと物議を醸す宇野さんの本です。
講談社現代新書1320 1989年/1996年新版発行 750円

 宇野さんの立派なところは、その過激な評論だけでなく、実際の演奏活動−指揮−を行っていることだと思います。ワタシは未聴ですが、コンサートはたいへんな人気だそうで、CDも出されて売れているとのこと。
 講談社現代新書ということで、初心者を意識した著作になっているでしょうか。旧版では、交響曲、管弦楽・・・・・といった順番になっていたのに対して、新版ではモンテヴェルディから始まる時代順に変更され、曲数も増加、推薦されるCDも追加されています。

 個人的には「ノウ・ハウ本」は好きじゃないので、この本を読んでCD購入の参考にしたことはありません。内容的にも、これから音楽に親しもうとされている人に、相応しいかは少々疑問です。個人的には「いつもの宇野節」を堪能しました。

 宇野さんは、LP時代からの膨大なライナー・ノーツがあり、CD化されてもそのまま使われているものの多い。例えばシューリヒトに対する大絶賛、クナッパーツブッシュやハイドシェックに対する深い共感が多くの音楽愛好家に与えた影響も大きいでしょう。(ワタシもそのひとり)
 この本では、読者に配慮したのでしょうか、意外とオーソドックスな演奏が選ばれています。例えば、有名なヴィヴァルディ「四季」では、イ・ムジチ(シルブ盤)、マリナー/ラブディ盤、かつてその激しさで話題となったアーノンクール盤、小澤/シルヴァースタイン盤(自由なソロの装飾音が楽しい)、そして往年のミュンヒンガー盤、という選択はあまりにもありきたりというか、ま、それなりに考えられているというか・・・・正直言って少々おもしろくない。

 一時の「古楽器嫌い」は、だいぶやわらいできましたが、BACHの「マタイ」がメンゲルベルク(超濃厚な歴史的録音)、リヒターの旧盤のみで「ほかはいらない」(コレこの人の口癖)という乱暴さ。メンゲルベルクもリヒターもワタシは好きだけれど、少人数によるすっきりとした新しい録音はほしいところ。メンゲルベルクは音の貧弱さと、あまりの個性の強さに曲のイメージを誤る可能性もあり。

 「繰り返しは必要ないだけでなく、むしろ緊張感を失わせる」といった主張、「カット容認」の考え方にはついていけません。

 有名な曲に対する、著者個人の経験は貴重なものですが、茂木さんみたいに共感できません。幕間の「交響曲・名指揮者ベスト9」も、オヤジ・ギャグ的なノリでイマイチ。彼の演奏評価は、なんとなく雰囲気がわかる(というか、彼の好みがはっきりわかる)のですが、いろいろ言葉を並べて結果「好き嫌い」のみ示される感じ。最近台頭している若手評論家に見られる、論理的・演奏史的な分析がほとんどない。(他人を説得するにはもっと理論的じゃないと。譜面の読める人なのにねぇ)

 メータ/イスラエル・フィルの演奏家に対して「メータのブルックナーなど聴きにいく方がわるい」・・・・・という決定的な毒舌。こうなると、評論云々外の話しで、逆にここまで言い切る勇気も凄い。楽曲解説は、諸井さんの簡にして要を得た表現に比べれば情緒的。

 ・・・・・・といいつつ、この人の本はけっこう買いますし、指揮者の好み(上記のほかにはカラヤン嫌い)も似ていないことはない。この本も、新旧両方とも出たらすぐ買いました。楽しみながら読みましたが、宇野さんの貴重な主張は充分に拝聴しつつ、あくまで参考程度がよろしいようで。


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written by wabisuke hayashi