五島 雄一郎 「死因を辿る」講談社+α文庫 1995年 980円 女性雑誌のゴシップものはお好きですか?お昼のワイドショウは?ワタシ、精神的オバハンなのでわりと好きです。この本は、ちゃんとした音楽好きなお医者さんが書いたもの。残された資料から死因を類推しているのですが、音楽に直接関係ないように見えて、これがじつに興味深い。けっこう衝撃的。
第1章「人生と死をめぐるミステリー」。 ブルックナーの「遺体好き」の性癖。鬱病、自己不確実性からくる、作品の相次ぐ改訂。ロリータ趣味。心不全からくる胸水貯留、肺炎から死亡。 チャイコフスキーは、さいきん有名になった同性愛の発覚から自殺勧告を受けたという説を詳細に紹介しています。 ま、このあたりは序の口。第2章「病が生んだ傑作」が凄い。
ベートーヴェンは先天性梅毒であったこと。シューベルト、ドニゼッティ、シューマン、スメタナ、ヴォルフ・・・・・この人たちはみんな梅毒だったんですねぇ。耳が聞こえなくなるのも症状のひとつだそうで、ベートーヴェンの直接の死因はワインの飲み過ぎによる肝硬変。 スメタナもヴォルフも、脳梅毒が発症する直前に創作のピークがきていることに注目。これが「病が生んだ傑作」ということです。 第3章「音符による過労死」。この章は、梅毒話じゃないので楽しく読めます。
ヘンデルは大食漢で肥満、おそらく高血圧、そして脳卒中というおきまりのパターン。老人性鬱病、老人性白内障と戦いながら作曲を続けたそうです。生涯独身。 第4章「食べ過ぎ、飲み過ぎ、成人病」。 代表はバッハさんなんですね。ものすごい大食漢で、子ども20人(奥さん二人)もつくった精力家。美食家であり、大食漢であったのはちゃんと記録にも残っており、一食で2800kcal(成人が一日に必要なカロリーは2200kcal)食べたとか。ワインも好きで、行き着く先は肥満、高血圧そして糖尿病。晩年の白内障はそれが原因ではないかと類推。(ワタシ、これからスポーツ・クラブに行って参ります) ブラームスは肝臓癌。プッチーニは喉頭蓋腫瘍。レーガーは、バッハを上回る大食漢で、アルコール中毒、ヘヴィースモーカーであり、心筋梗塞で亡くなっています。 第5章「五線紙が毀した心」。このあたりは、ベルリオーズ、メンデルスゾーン、ショパン、ムソルグスキー、マーラーなど、わりと知られている逸話が多い。ファリャの晩年は、家の使用人たちに静粛を徹底した、というのはやや不気味。 第6章「禍福あざなえる長寿人生」。最終章は、ほんとうに幸せな長寿を全うした作曲家たちのお話し。ま、ハイドンなんかが有名ですね。題して「生涯の汚点は悪妻だけ」(ここだけ女房に見せました)「食べたいだけ食べた」ロッシーニ。シベリウスもそうですが、晩年ほとんど作曲しなかったのは、鬱病が原因ではないか、と類推しています。 ま、こんなことを知らなくても音楽は楽しめますが、「我が祖国」の心に染み入るような旋律を聴きながら、「これは脳梅毒の前兆が生みだした傑作か」と思いを馳せるも悪くありません。
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