諸井 誠 「ピアノ名曲名盤100」

こんな類のノウ・ハウ本は、ふつう買わないようにしているんですが・・・・。
音楽の友社  1977年発行 750円
(を、古本屋で300円)

 20年以上も前の本でしょ?改訂版は出ているのかしら。(買うつもりもないけれど)1986年第11刷となっているから、相当売れたんでしょう。この本は、たしかかなり以前、出張先の福井で時間が中途半端に余ってしまって、古本屋でみつけたもの。このような「ノウ・ハウ本」は趣味じゃなくて、まず自発的に買うことはなし。でもね、この本、いきなり表紙がグリーグのピアノ協奏曲(ミケランジェリ/フリューベック・デ・ブルゴス/POのROCOCO盤OP7081)−いわゆる海賊盤ですよ。もちろんLP時代の執筆で、CDなんかまだ陰も形もなかった時代の著作。

 で、100曲分「名曲」を選定して、数枚ずつのお勧めLPを紹介していくいつものパターン。ですが、クラシック音楽って不思議に現在読んでも古くさくならない。エコノミーだなぁ。
 諸井さんといえば、現代日本を代表する作曲家の一人。きわめてクリエイター的な視点で評価を下していて、かつての評論にありがちだった情緒的(優麗な、とか、ドイツ的な、まことに堂々とした、なんて・・・)表現とは一線を画すもの。

 選曲は常識的ながら、フランク「前奏曲、コラールとフーガ」「交響的変奏曲」、スクリャービンのピアノ・ソナタ第3番、辺りが異色でしょうか。もしかしたら当時流行っていたのかな。

 BACHの「平均率」が冒頭にくるのは当たり前でしょうが、E、フィッシャー、リヒテル、ニコライエワ、という順当な本命の後に、園田高弘(コロムビアOZ7059〜63)が出てくるところが渋い。二声のインヴェンションにはチッコリーニ、フランス組曲にはバックハウスと並んで小林道夫、パルティータにはケフェレックとワイセンベルク・・・・・・・と、ワタシは未聴で驚くようなLPばかり。

 BEETHOVENは順当なスタンダード録音が選択されています。WEBER「舞踏への勧誘」(この訳、なんとからなんでしょうか。「踊りませんか?」とかさ)ではブライロフスキー、タッキーノ。SCHUBERTの長大なソナタ変ロ長調ではヘブラー、CHOPINの協奏曲では再びブライロフスキー、件のフランクではリヒテル(メロディア盤〜なかなか売ってないよ!)、「展覧会の絵」にはベロフやフィルクスニーが出てくるし、で今見ると実にマニアック。

 でも、全体として八割くらいは「いかにも」という定番で、現在でも評価の高いものばかり。短くまとめられた楽曲解説は、簡にして要を得たものでけっこう深まります。巻末の「レコードについての七章」も含蓄の深いピアニスト論になっていて、楽しめます。 


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written by wabisuke hayashi