吉田 秀和著「世界のピアニスト」新潮社文庫 1983年発行 560円 吉田先生はまだ元気みたいで安心です。FMは滅多に聴かなくなったが、朝日新聞には定期的な評論が載っているし、(当たり前の話しだが)この人は「日本の良心」と思います。ウン、まちがいない。この本も「現代の」というには少々亡くなってしまった方々が増えてきたが、CDでのスターぶりはいつまでも若々しい。 ま、ブーニンとか、キーシン、ジルベルシュテイン、内田光子なんかが出てこないのは理解できるが、クライバーンが出てこないのは既にこの本執筆時期にほとんど活躍しなくなっていたのか?グラフマンがないのは、吉田先生の興味外だったのか?ホルショフスキー、チェルカスキーがいないのは少々残念、とかいろいろ感想はあります。 「音楽はこう聴く」という、お手本がここにありました。まず音楽に感動すること(ここまではワタシでもできる)、その感動の本質〜あたらしい発見、分析を平易に〜ワタシのようなド・シロウトでも理解できるように表現していくこと。つまり評論そのものが芸術であって、深い本なんです。(そしてズシリと重い) 当時若手の代表だったアルゲリッチから開始。やはり衝撃だったんでしょ?吉田先生は「ナマ重視」で、ちゃんとベルリンで聴いているんですね。(1967年)微に入り細に入り分析したあとの結論は「彼女は肉体の中に音楽を持っている」「まだ即位以前の皇太女王みたい」。 つぎがアシュケナージで、このひとも若手の代表と注目されていた時期なんでしょう。(ワタシはこのひとのCDはほとんど聴いたことがない)「豊かな甘美な響き」「音の円やかな美しさ」「姿といい、顔かたちといい、なんのつけどころのない美人、それも豊満な美人」とのこと。ここまで言われて、美人を見たいと思わない男性はいないはず。 例を挙げ続けるわけにもいかないが、(現代ではなにかと批判も多い)バックハウス〜当時もっとも高い評価を得ていた〜へと続くが、MOZARTを先頭に語るところが慧眼でしょう。「曲の真価を正確に表現する」とのこと。つまり、ツマらない曲をおもしろく聴かせる人ではないそう。 あと、高名なピアニストは余すところなく登場し、語られます。まだ誰も注目しなかった頃からのグールドの評価者でもありましたし、当然彼の詳細な分析もあります。この本の中では唯一、クフェレク(ケフェレックなんていう表記も存在した)のみが、現在では忘れられた存在でしょうか。 ワタシは、ピアノ・ソロや室内楽を聴く機会が少ないので、虚心になってこの本に学びつつ、音楽を楽しもうと思います。
●本で聴く音楽−▲top pageへ |