岩城 宏之 「指揮のおけいこ」文春文庫 2003年発行 495円 北朝鮮の取材で物議を醸した「週間金曜日」に連載されたエッセイの文庫化。レッスン1〜17まで延々と楽しく講義は続きます。岩城さんも幸い健在だし、既に出版物は20冊を数えるとのこと。ワタシは半分も読んでいないでしょう。正直「ネタ」は何度も読んだような気もするが、新しい発見もありました。 きわめて実践的な「指揮は腕でする」いや「目でする」と結論しておいて、肩を故障して実際には指揮が成り立たなかった経験。指揮棒のあり方〜って、これ技術論じゃなくて、菜箸を削っての指揮棒の実践的作り方。持ち手部分のコルクのありかた〜これマルティノンやらカラヤンから学ぶんですね。 新ネタとしては「女性に向かない職業?」かな。これは一般に流布する(ジョーク含めて)「指揮者は女性ではつとまらない」という理由や実例を沢山挙げて、結論的に「女性指揮者への偏見を退治するのは、女の指揮者の実力だけなのだ。喝!」。つまり、そんな理由はどこにもない、ということ。ヴェテラン松尾さんや、マリン・オルソップの活躍には注目しましょう。西本智実さんの話題は華やかだけど、真の評価はこれからか? で、ワタシの「新しい発見」とは全然別なことなんです。岩城さんは、実力派だけど(ま、体調の問題もあって)現在、海外ではあまり活躍されていないでしょ?小澤征爾の華やかなキャリアから比べると、ずいぶんと地味。かつて、アトランタ響とか、ハーグ・フィル、メルボルン響の指揮者を務めたのに、どうして?って、ずっと思っておりました。 これはレッスン16「指揮とはスポーツだ」を読めば氷解。彼は職業病で首の手術を二度(だったかな?)受けているですよね。幸運にもその関係の最先端の医療が日本では発達していて、みごとに復活!でも、怖かったので、念のため数ヶ月首に「フィラデルフィア」(よくむち打ち症の人が付けているギブスみたいなやつ)を付けて(海外へも)指揮していたとのこと。 日本人なら「ああ、たいへんな手術をしたのに頑張っている」という評価になるんだが、欧米では発想が違う。「イワキはもうだめだ」と、つまり、弱肉強食の発想なんです。「手負いでけなげ」というのは日本人の発想。欧米ではそういう姿は見せてはいけなくて、常に強者でなくては活躍できない。だから、その後、次々と契約のキャンセルが相次いだそうです。 ワタシの深読みかもしれないけど、それがキッカケたったのかな、と、そんなことを感じました。相変わらず文章は軽妙で面白い。同い年の山本直純さんも亡くなったし、いつまでも元気で活躍して欲しいものです。
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