茂木 大輔「オーケストラは素敵だ」

オーボエ吹きの楽隊帖
音楽の友社 1993年  850円

 N響の「スーパー・オーボエ」で大活躍中−茂木さんの文章は楽しいなぁ。同世代の共感もありますしね。読んだ後に、涼風が心の中を爽やかにくすぐるような、素敵な本。この徹底した悪ふざけと神妙なる真剣さの同居は、我らウルトラマン世代の特質なんでしょうか。「正面切って自分の努力・苦節を表出するのは恥」(林 侘助。語録)という価値観。

 「オーケストラの楽器たち」からして、なんかいままでのパターンと違っている。

「楽器別性格判別法」なんてのは、かなり昔から使われているネタですが、もっと専門的であり、ある意味まったく関係ないエピソードだったりします。ポーランドの演奏会でオーボエ・ダ・モーレを吹いていた彼が、楽器の調子が悪くて(どこを押さえてもファしかでない)BACHのロ短調ミサ曲の本番中に、お隣の福田さんにパートを譲って助けてもらう・・・・・・と、ここまではありそうな感じでしょ?(「助けてくれ国際救助隊!」という文学的表現は秀逸ながら)

 福田さんは、あるポーランドの女性に惚れていて演奏会に招待していたから、彼女の前で急遽エエカッコウできて最高!のはずが、件の彼女は別彼氏同伴だった・・・・・・・で、二人の奏者はホテルで痛飲することに・・・・。

 ソプラノ・サキソフォーン。ドイツ留学中の貧乏生活中、日本にいる彼女に国際電話で大喧嘩、電話を切るに切れなくて30分、12万円の請求とともに電話代として消えた・・・・。(で、喧嘩の彼女はいまの奥さんだそう。美しい思い出)

 もっと音楽と縁遠い話しは、バリトン・サキソフォーンの略称である「バリサク」物語。そこから強く連想される日本人名(森田罵詈作などなど)→飛躍して、そんなふうな名前を付けた主人公による往年の喜劇映画「駅前社長シリーズ」(森繁とかクレージー・キャッツなんか)のありがちなストーリーが展開されるケッサク。(そんな世代じゃないはずなのに、なぜか知っている)

 でも、じつはワタシがこの本を読んで一番紅涙(ん?表現がおかしい。美人女性に使う言葉だな)を絞られたのは、筆者がドイツは「バッハ・アカデミー」に参加する「オーボエ吹きのドイツ修行」。

 ベルリン放響(現ドイツ響)の主席であったパッシンに出会った筆者が、ドイツに留学することに。ここで有名なリリングのバッハ・アカデミー(BACHカンタータ史上初の全曲録音の偉業有)に参加して、散々絞られつつ(一気に白髪になるほど)BACHの魅力に目覚め、やがて師匠のパッシンとは師弟を越えた親密な間柄に・・・・。

 「オーケストラ・メモランダム」のネタは明かしません。ひとつだけ「批評、褒められたら三年は幸せですね」で、演奏会批評もスポーツ新聞並に「サヴァリッシュ激怒・オーボエ大ミス」「N響乱闘」「茂木退場」等、過激な批評が多彩にあれば・・・・・(という妄想)が凄い。

 手許には茂木さんの「スーパー・オーボエ・コンサート」のFMエア・チェック・テープもあるので、こんなん読みながら聴くと、もう最高。古本屋で「続」(100円)で見つけてきたので、楽しみに読みます。


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written by wabisuke hayashi