柴田 南雄「クラシック名曲案内ベスト151」

名曲紹介としては最高の水準、と思います。
講談社文庫 1996年発行  820円

 故・柴田先生の名著作。NHK交響楽団のプログラムに掲載されたものをまとめたものだそう。前 和男さんのインタビュー形式によるわかりやすいお話しで、こういった本の中では出色の楽しさ。

 ワタシはもうちゃんとした解説の付いたCDは買わないし、LP時代はずいぶんと立派な解説(ジャケットのデザインも一つの芸術だった)を楽しみにしていたものですが、こういった本が出ていると本当に助かります。いや、凡百ありきたりな解説に満足できない人には超お勧めの一冊。

 題名が「クラシック名曲案内」となっているので、誤解を受けそうですが、タップリ151曲、モンテヴェルディからブロムダール(これ誰?)まで、実用的かつ深い、しかも理解しやすい情報に満ちあふれた名著です。

 例えば、たまたまいまBRUCKNERを聴いているもんで、そこいら辺を読んでみると・・・「ブルックナーというひとは新聞を読まなかったときいています・・・」てな話から始まって「まあ、神様の近くで、自然を相手に終日暮らしている芸術家というのは、19世紀にだってそうざらにはいなかったんです」〜そして、ぐっと専門的に「木管は二管編成ですが、金管がホルン4,トランペット4・・・・・・これじゃ実際には、木管はフォルテの時にダブらせなきゃ不可能です」といった納得話へと展開する。

 シューベルトの有名な「ロザムンデ序曲」は、じつは曲名がおかしい、「アルフォンソとエストレッラ」が正しいかもしれない、という説。

 R.シュトラウスの「ツァラ」と、ニーチェとの関係。「意図したものはニーチェの著作のどういう点にあったのでしょう」との問いかけに「いや、それはじつは、どうでもいいんですよ」と、バッサリ。その説明の後に「ニーチェは作曲もしていて、作品も残っている」由。(知らなかったでしょ)

 RVWの「タリスの主題による幻想曲」も、大好きな曲だけど「タリス」ってどこのどいつか知りませんでした。16世紀イギリスはヘンリー八世の時代の音楽家だそうで、「生まれたのはレスターシャで1505年頃、死んだのはグリニッジで、そのせいか1585年11月23日・・・」と、かゆいところに手が届くような説明。

 有名なバルトークの「オケ・コン」では、ショスタコヴィッチの第7交響曲の「陳腐なラヴェルの模倣」を嗤った一説が引用されているとのこと。(中断された間奏曲)ショスタコの引用はなんとなく知っていたけど、「嘲笑」は知らなかったなぁ。

 ピツェッティ、マルティヌー、グリエール、ブロムダールなど、なかなかお目にかかれない作曲家の曲もあって、「名曲」とひと括りにできない多彩さと、もちろん一通り有名どころも揃っていて親切です。いちおう「お勧めCD」は一枚ずつ付いていて、初心者の方には親切かも。

 柴田先生の本はどれも本当に楽しくて、最高です。


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written by wabisuke hayashi