宇神 幸男 「神宿る手」講談社文庫 1993年発行 500円(古本で100円) 小説はほとんど読まないほうなんです。ノンフックション、エッセイがワタシの読書の中心。だれでもそうかも知れないが、ここ最近BOOK-OFFばかり利用しています。ああ、これ例の話題になった音楽小説だな、と思って買ってきました。で、読んでみると粗筋に記憶がある。もしかしてこの本、ワタシが売った本だったのかも。情けない。 音楽雑誌記者・蓮見を主人公に、かつてラノヴィッツ(これ、いうまでもなくホロヴィッツを彷彿とさせる)を震撼させたという幻のピアニスト・ジェラール・バローのCDが発売され、事件は展開していきます。こういったミステリーものに付き物の殺人事件とか、暴力シーン、セックス・シーンなどは登場しない。音楽の扱い方は、俗っぽい演奏評論は直接出てこなくて、ややパロディじみた「ジェラール・バローのCD」の各界の評価が類型的でおもしろい。 この作品が最初に出たのは1990年だから、まだバブル景気の頃だし、CDも出始めの頃。ブーニン・ショックで大人気(あれもバブルだったのか)の時期でしょう。ホロヴィッツが来日してごっそり稼いでいった後ですね。この小説では、大ピアニスト・ラノヴィッツが写真週刊誌のスキャンダルでエラいことになるんです。 西洋拷問研究家・島村夕子が、もう一人の主人公として登場します。能を舞台にしたり、香水の銘柄を上手く使って、この女性の神秘的な魅力が上手く表現されます。だいたい想像付くと思うが、蓮見と絡むんですね。でも、肉体関係は最後まで出なくて、これからを予感させるだけ。 「序奏」で、スイス・シュタウプバッハの滝で昏倒し、亡くなる将来を嘱望される日本人青年ピアニストは、モンブランで亡くなったフルーティストの加藤怒彦を連想させますね。これが、ラスト辺りでバローの発掘と結びついてくる。 かのCDは偽物の演奏なのか?高齢と難病に犯されるバローの来日公演実現に向けて奔走する主人公たち。開演直前に消えた楽譜の謎。リハーサルを体調不良で欠席したバローは本番開演直前に亡くなってしまう?〜ま、エンターティメントとして充分におもしろい一冊です。音楽好きならぜひ読んでみて。
●本で聴く音楽−▲top pageへ |