岩城 宏之 「男のためのヤセる本」

ドレミファ文化論
新潮文庫 1981年発行 280円

 もともと1972年に発行され、ベストセラーになった本の文庫化。野坂昭如さんがまえがきを担当。「ドル・ショック」とか「円切り上げ」なんていう時代を感じさせる話しも出るし、現在なら「表現上の問題」でヤバいところも少々有。でも、ぜひ改訂しても良いからぜひ復刊して欲しいもの。かなり以前に読んだ記憶がありましたが、このたび古本屋にて100円で発見。

 ワタシは既に10年以上に渡ってダイエット宣言をしているが、体重は低迷する日本経済を後目に安定成長を続けています。つまりこれは、精神が弛緩しているのだと岩城さんは説く。1969年の夏、13kg痩せたそうで、37歳の時。ワタシが子供時代、テレビでの記憶ではコロコロしていたはずで、本人も気にしていたんでしょうねぇ。

 で、なんやかんやノウハウが載ってはいるが(香川式だそう)、その心構えのほうが参考になります。「恋が終わると太り出す」「やせるということは若さを維持すること」だそうで、ま、いまさら身を焦がすような恋は(とくに女房の手前)出来そうもないが、そもそも誰も相手にしてくれない状況はたしかにヤバイ。

 滅多やたらと「戦うオトコ」とか「働き盛りのサムライ」とかいう表現が出ていて、これも高度成長時代の名残だが、気持ちは理解できるもの。「スポーツで痩せるのはまちがい」「基本は減食」「量は少なく、種類は多く」など、ワタシでも知っている常識は要領よくまとめられています。(でも実行できないが)

 第3章「軽快な音楽へのコンプレックス」あたりから音楽の話しが出てきます。指揮者には職業病が多くて、岩城さん自身首の骨の摩滅でエラいことになっているし(記憶ではこの本のあとに大手術をしているはず)、小澤征爾やアバド、メータも当時まだ若かったはずだが首を痛めていたそう。減量には、この首の骨摩滅も関係していたとのこと。

 痩せると神経が鋭敏になる、身振りも軽快になる、従って良い指揮もできるという実体験。第4章で「男はいくつで死ぬべきか」。老大家の"名演"は胡散臭いと。岩城さんはシューリヒトの録音に同席しているそうで(これ、コンサートホール・レーベルのウィンナ・ワルツ集でしょう。同時に録音したのが、岩城さんのハンガリー狂詩曲と思う)、ヨボヨボで耳も遠いのに、オケをちゃんとコントロールしちゃう。下半身不随で立てないはずのクレンペラーが、「ミサ・ソレ」の演奏会クライマックスで凛々しく立ち上がってしまう奇跡。

 そんなことを目撃していても「棒はダメだったが魂があった」などというもっともらしい批評が通用する甘さ、巨匠という栄光にあぐらをかいて商売している老指揮者の姿に、僕は時に(悪いけれど)老醜を感じてしまうのだ・・・・という辛らつな言葉。「老大家にはなりたくない」〜病気になることも、歳を取ることも怖い、そのために節食・節酒を心がけ、引き締まった身体を維持するすることなのだ〜。

 ま、行ったり来たりで自分の(というか戦中世代の)思い出、減量のノウハウが出てきたり消えたり、音楽の話しになったりします。最後のほうで「とうとう39歳になってしまった」というのは、とても理解できる。ワタシはとうに40を越えてしまったが、その絶望的な気分はありありと思い出します。(このまま行けば老人性鬱病になるかも・・・冗談抜きで)

 女性は頑張ってダイエットに励んでいるが、男も頑張らなくては。ウチの女房は太らない体質で、うらやましい限り。前回減量出来たのは、もう20年以上前だからなんとかしなくちゃ。「ダイエットに効く音楽」みたいのはないでしょうか。確実なやつ。


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written by wabisuke hayashi