岩城 宏之 「楽譜の風景」岩波新書 1983年 430円 なるべく同じ作者を出さないように努力していたけど、ネタ切れっぽいし、岩城さんの本はやっぱりおもろしろい。音楽ファンならみんな知っている本なんでしょうけど、もしかして買い漏れている人もいるかもしれないので、ぜひお勧め。文庫のほうは、どちらかというと肩の凝らない「音楽家の日常生活」主体であるのに対して、こちらはかなり音楽の専門領域に踏み込んでいます。ワタシのような素人でも充分楽しめる、いつもの平易な表現。 少々オールド世代には懐かしい映画「オーケストラの少女」〜ストコも出演〜をみて、音楽家になる決意をしたこと。ほんものの指揮者になってから、見直してみるとガッカリしたこと。でも、同世代のオケのメンバーと飲んでいて「高校生の息子がその映画を見ていて泣きやがんの」という、若い世代にのみ発揮する魔力の不思議さ。 現在ではかなり当たり前になりつつある、シューベルトの「未完成」における「ディミヌエント」と「アクセント」の表記の曖昧さの件。それをウィーンのムジーク・フェラインに保存された「原譜」にあたって確認し、実演に至る興味ある逸話。楽譜も使ってそれなりに専門的な内容ですが、手持ちのCDを取り出しても充分楽しめます。 似たような話しで、ベートーヴェンの第9交響曲におけるティンパニの「ディミヌエント」もおかしい、と類推、確証を得る話しもおもしろい。(セルが録音で実践している由) 「写譜」が音楽を変えること、作曲者自筆の楽譜と印刷されたものでは、指揮のしやすさが全然違うこと。(おそらくこれが「楽譜の風景」という題名の由来でしょうか。 筆者が心血を注いできた「現代音楽」の話題から、「暗譜」の話しへと移ります。小沢征爾の「暗譜」は有名ですが、岩城さんにも言い分はある。そして有名なメルボルンとの「春の祭典」演奏中、頭の中の楽譜をめくり損ねてガタガタになってしまったこと。「百三十四ページの第二、第三小節が、ぼくの頭の中のフォトコピーから消えていたのだった」〜そのあとの楽団員との心温まる結末は読んでのお楽しみ。 岩波書店の「図書」に掲載されたものを集めたものようで、その後「フィルハーモニーの風景」というのも上梓されています。久々に読み返した本ですが、なんど読んでも楽しい。どこのページを開いても音楽が聴こえてきそうな本です。
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